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2016年7月 5日 (火)

漢の韓信-(135)

信じれば真実、疑えば妄想……

昨日という日は歴史、
今日という日はプレゼント
明日という日はミステリー



こうして、こうすりゃ、こうなるものと、
  知りつつ、こうして、こうなった



メジャーでは無いけど、 こんな小説あっても、
良いかな !!
アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい



Kanshin021111


韓信
紀元前二〇〇年代の
中国大陸。
衰退した秦の末期に
生を受けた韓信は、成長し、
やがて漢の大将軍となる。
「国士無双」「背水の陣」
「四面楚歌」
そんな彼を描いた小説。






漢の韓信-(135)


文書の末尾には印が押されていた。
印が押されてある以上、この文書が
私的な手紙などではなく、公式な命令書であることを
意味している。しかし、この時代の命令書とは
要点だけを端的に記しているものが多く、
韓信も曹参もこのような、くどくどと長い文章を
綴ったものは、見るのが初めてであった。

「……どう思う?」
韓信の問いに曹参は率直に答えた。
「あなた様の功績に対して賞賛していながら、
それにいちいち注釈をつけていますな。
漢王があなたを信頼するかどうかは、
次の戦いの結果にかかっている……

今に至るまであなたは功績を重ね続けてきたが、
漢王はそれに満足しているわけではない……
そういうことでしょう」
「そうだろうな……しかし」韓信は手で地面の砂を
一握りすくいあげ、それをひとしきりもみ砕いたと思うと、
勢いよく放った。

いらつく心を落ち着かせようとする素振りであった。
「私は、都合よく振り回されているだけのように思える。
今さら斉国の領有を認められてもな……
失った者が帰ってくるわけではない。
斉の地をもらったところで、そこに蘭が
待っているわけではないのだ」

曹参は、言葉を失った。
蘭の死に関して、韓信がその気持ちを吐露したのは、
これが初めてであったことに気付いたのである。
「……お察しいたします」そのひと言しか
返しようがなかった。

「うむ。しかし、本当に私の気持ちを
察してもらいたい相手は、君ではなく漢王だ。
私は、あの方に忠誠を誓ったことで……
蘭や酈生を失い……カムジンを殺さねばならなかった。
しかも私はもとより……斉王になりたくて
戦ってきたわけではないのだ。

戦いに勝つことは確かに自分の虚栄心を満たす。
しかしそれが欲しくて戦ってきたわけでもない。
私はただ……戦いに勝つことで他人から
嘲りを受けないことを望んだ。
しかし、結果はこうして漢王に軽んじられる存在と
成り下がっている」

「…………」「出会った頃の漢王は、
私が寒がっていると服を着せ、
暑いときには汗を拭いてくれたりもしてくれた。
腹をすかしていると見れば、食事を用意し、
道で出会ったときには車に乗せてくれた。

しかし、あの方は……お変わりになり、
そのような気持ちを示すことをしなくなった」
「領地を保証していらっしゃいます……
それは、汗を拭いたり、服を着せたりすることよりも
はるかに大きな恩賞でございましょう」

「それはそうだが、しかし漢にこの地をもたらしたのは、
漢王の力によってではない。
酈生と……はばかりながら、私の力だ。
いや、私と酈生はそもそも漢王の命によって
行動したのだから、その功が漢王に
帰せられるべきだということはわかっている。

だが、そうとわかっていても言わずにはいられないのだ」
臣下も韓信のような地位になってくると、
結果だけが重視される。
功績は功績のみ評価され、それに伴う苦労や、
失った犠牲などは無視される。

大樹は自分の周辺に子孫を残すべく種を飛ばすが、
種が成長して自分と並ぶような高さに
育つことを期待しているわけではない。
自らの作る影が日の光を遮り、子孫の成長を
阻害することを知っているからだ。

このため成長半ばで枯れ朽ちる子孫は、
親である大樹の養分となって短い一生を終えるのである。
人々は大樹の咲かせる美しい花や、美味なる
実にのみ感銘を受ける。しかし、
その裏に犠牲が伴っていることに気付く者は少ない。

このとき曹参が受けた劉邦と韓信の関係の
印象がそれであった。
韓信自身は自分の功績のために犠牲となった者を思い、
自責の念に駆られながら日々を過ごしているが、
その功績があまりに偉大で美しいものであるため、
他者はなぜ韓信が自分を責めるのか
理解できないのである。
そして、このときの他者とは漢王である劉邦を
指すのであり、大樹である彼は小さな、
そのようなことに気付かないのであった。

「……では、このたびは命令書に従わず、
遠征しないということにいたしましょうか」
曹参はそう言って韓信の返答を待った。
しかし、韓信はなにも言わない。
「もし、それがまずいということであれば、
王ご自身は今回臨淄に残り、兵は私が
引き連れていくことも可能です」

「……いや、それはよくない。
命令を与えられたのは私であって、
君ではないからだ。
仮に私が君に任務を代行させたとしたら、
私は忠誠心を疑われるばかりか、
項王との戦いを前に逃げ出した男として、
嘲りを受ける。

君の気持ちはありがたいが、ここはやはり
私自身が行かねばならないだろう」
漢王ははたしてこのような韓信の性格を見込んで
命令を発したのだろうか。曹参の見る限り、
韓信はそれほど劉邦を尊敬しているわけではない。
よって忠誠心も口で言うほど、あるわけではなかった。

ただ韓信にあるのはどんな無理な命令も実現させる
能力であり、本人もそれを自負しているのである。
命令に対して「できません」と返答することは、
自身の能力を否定することであり、劉邦にしてみれば、
韓信のそのような性格を理解していれば、
どんな命令でも押し付けることが可能なのである。

しかし、このことは逆に韓信を信用していることの
証でもある。
かつて韓信は項羽の配下にいたが、項羽が
韓信を信用して任務を与えることがなかったため、
彼は漢に転属した。
彼が漢に不満を持ったからとして、再び楚に
帰属するとは考えられず、
残された道は自立するばかりである。

かといって放っておいては、やはり信用を
形にあらわすことができない。
劉邦の立場としては韓信を信じて命令を出すことだけが、
自分が上位に立つための手法であるのだった。
なぜなら、軍事的能力において、韓信は
劉邦を上回るからである。

韓信に忠誠を誓わせるには、軍事によってではなく
上位者の威厳ある態度を示す方が効果的なのである。
斉王は、野心の少ないお方であるから助かっているが……。
斉王の自制により、漢は命脈を保っているといっても
過言ではあるまい。

しかし、天下に項王が存在しているうちはまだいい。
項王亡き後、漢王は斉王になにを命令するのか。
そのとき漢王はどうやって斉王の上に
立とうとすることができるのか……。

曹参は将来劉邦、韓信双方に
不幸が訪れることを思い、頭を悩ました。
しかし、彼にはどうすることもできない。
このようなとき、魏蘭が生きていれば……
少なくとも韓信をうまくなだめ、
激発を抑えることは可能なはずであった。

漢王と斉王の争いが起きれば、私は立場上
漢王の側につかねばならぬ。
斉王と袂を分かつのは心苦しいばかりだ……。
いや、そんなことは言っていられない。
斉王の力をもってすれば、漢王はおろか
私自身も滅ぼされるに違いない。
どうか……なにも起きてくれるな。・・・・


つづく

Author :紀之沢直・:野沢直樹
http://kinozawanaosi.com.


愚人は過去を、賢人は現在を、狂人は未来を語る


歌は心の走馬灯、歌は世につれ、世は歌につれ、
人のせいにしない、恨まない、人生、絵模様、万華鏡…


新宿慕情



人の為(ため)と書いて
いつわり(偽)と読むんだねぇ


時は絶えず流れ、
今、微笑む花も、明日には枯れる



P R

カビの生えない・きれいなお風呂

お風呂物語 

入れてもらえば気持ちは良いが、
    どこか気兼ねなもらい風呂

Set1

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