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2016年11月27日 (日)

信じれば真実、疑えば妄想…漢の韓信-(151) 皇帝と楚王

信じれば真実、疑えば妄想……


昨日という日は歴史、今日という日はプレゼント
明日という日はミステリー


メジャーでは無いけど、 こんな小説あっても、良いかな
アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい


Kansin

漢の韓信-(151) 皇帝と楚王

韓信の発言は事実を捉えている。が、熟考の末に答えに
たどり着いた彼は、その答えが鍾離眛にどのような感情を
もたらすかを考えることなく、言葉にして出してしまった。

韓信がそのことに気付いたとき、既に眛は怒りの炎を
目に宿していた。
「信、君は……この私のことを……恐るるにも足らぬ
存在だ、と言いたいのか。
楚の宿将鍾離眛は、取るに足らない存在だと……」

「いや、そんなつもりで言ったのではない。ただ、皇帝が
敵視しているのは君ではなく、私であることを言いたかっただけだ。
つまり、私が頭を下げれば、君は許される。
皇帝は君を恨んでいるわけではなく、私の武力を恐れているのだ」

「ありあまる能力を持ちながら叛く気概もない奴を、
皇帝が本気で恐れるものか!お前は舐められているのだ!」  
鍾離眛は激発こそしなかったが、その言葉には力を込めている。

韓信はどう彼をなだめるべきか、迷った。
「叛くこと自体を美化するのはよせ。私には、そんなつもりはない。
それがなぜかわかるか?
私は今の地位を得るまで、数々の者を失ってきた。
常勝将軍だと言われてきたが、失った兵の数は決して少なくない。
しかも私が殺してきた敵兵の数は、それ以上なのだ。

今私が意趣返しをして叛いたりしたら,彼らの死はすべて
無駄となる。なんの意味も成さなくなってしまうのだ」
「さっき君は皇帝の美徳を説明したな。
彼は間違った判断に固執しないと。それが本当に
美徳だとすれば、君は単なる頑固者だ。
過去の間違った行動にとらわれ、これからとるべき行動を
改めようとしない」

「……それは皇帝の美徳だ。私のではない。
私はそんな美徳を持ち合わせてはいない」
「ああ、そうだろうさ!人は、誰しも正しいと思うからこそ
行動に移すのであり、明らかに間違っていると思われる
行動は、なかなか出来ないものだ。私だってそうだ」
「…………」
「私は、楚に仕えた過去の行動を間違っていたとは
思っていない。楚が敗れ、滅びたのは確かだが、だからといって
私が間違った行動をとったとは思っていない。

聞け!項王は敗れはしたが、悪人ではなかった。
私は悪人に仕えたつもりはまったく無いのだ。
……なのに、なぜ私が赦しを請わねばならぬ?」
項羽は確かに敵に厳しく、残虐な面はあったが、
ひとたび情に触れると寛大な態度を示し、身近な者には
礼を尽くして接した。  

また、論功行賞の際、あまりに細かく国を切り刻んだことで
吝嗇だと評されたりもしたが、これは裏を返せば、
できるだけ多くの者に報奨を与えたいと望んだ結果だとも言える。
義帝(懐王)を弑したことは、確かに間違った行為だった
かもしれないが、項羽にとっては正しいことだったのだろう。  
しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。

「誰かが言った。大事を成す者は、一時の屈辱をものともせぬ、
と……。眛、君もそうだとは思わないか?」  
韓信は暗に鍾離眛に耐えろ、と言おうとした。
ところがこの言葉も鍾離眛の癇に障った。
「王座にしがみつき、大事を成そうとしているのは、君だろう。

私ではない!」 「眛! 事態は差し迫っている。
私の近侍の神経質な者の中には、君の首を皇帝の元に届け、
事態の沈静化を目指すべきだ、と言う者もいるのだ。……
頼む。私とともに皇帝のもとへ……このとおりだ」
韓信は床に頭をつけ、ひれ伏した。
彼の必死の思いがそうさせたのである。しかし、
鍾離眛はそれを受け付けようとしなかった。

「斬られた方がましだ」
「なにを言う!誰が君を斬ると言うんだ。
私には、そんなことは出来ない」  韓信がそう言って
目を上げたとき、鍾離眛の剣は既に抜かれていた。  
はっとした次の瞬間には、その剣が韓信の頭上に
振り下ろされていた。
「やめろ!」危うく身を翻して逃れた韓信は、
次の攻撃を防ぐために、自らの剣を抜き、構えた。

鍾離眛の剣は、それを激しく打ち叩く。
「やめないか!」
「信! 受けてばかりいては、私を斬って首だけにすることは
出来ないぞ。斬らねば、……私は君を斬る!」  
二度、三度金属音を鳴り響かせ、剣が火花を散らした。
鍾離眛は力任せに剣を打ち付け、それを防ぎ続けた
韓信は体勢を崩して転倒した。

そして彼の剣は手から離れてしまった。しまった、剣が……。  
絶望を感じた韓信の喉元に、眛の剣先が突きつけられた。
「信。……ついに私は、君に勝つことができた」

季節は冬で、十二月の寒い中である。屋敷の戸は閉め切られ、
寒気が中に入り込まないようにしてあった。
このため、室内の音はあまり外に響かない。
また、韓信は自室に鍾離眛を呼ぶ際は出来る限り余人を遠ざけ、
衛士も通常より離れた場所に配置していたので、
彼らが異変に気付かない可能性があった。

あるいは大声で助けを呼んだ方がいいかとも思われたが、
声を出したとたんに殺されることも考えられる。
侍従の者たちが機転を利かせて対応してくれることを願った。
その思いが通じたのか、彼らが廊下を走る音が、伝わってきた。
助かった、と韓信は思ったが、よく考えてみると
彼らを介入させることは、鍾離眛の死を意味する。
助けると約束した以上、彼を殺させることは出来ない。
たとえ自分が死ぬことになっても……

韓信は、やはりこの場は二人だけで解決することを望んだ。
「来るな! 来てはならん。もうしばらく、そこにとどまれ」
韓信は顎の下に剣先を突きつけられたままの状態で、
大声を発して家令たちを制した。
「……いい判断だ。彼らに私を取り押さえさせないのは……。
私が君を斬ることがない、と思ってのことだろう。
……事実、その通りだ」眛はそう言ったが、剣は引かない。

「斬らないのか……?」
「君はかつて私に高らかに宣言したことがあったな。
そう……相手が私でも自分は構わずに斬る、と。
その思いは私も同じだ。いや、同じだった。
……しかし、いざとなると旧来の友人を斬ることは
出来ないものだな。
さしあたり、君に頭を下げさせ、剣技で上回ったことに
満足することにしよう」

「助けてくれるのか?」
「ああ。そうだ。おっと! ……まだ動くな。
私は……幼き頃から常に……君に勝ちたいと望んできた。
常に君より上の立場でいたいと。だが君は……
それを昔からわかっていながら、私にそうさせようとは
しなかった。

子供の頃は学問や剣技で常に私を上回り、長じてからも君は
私をはるかにしのぐ武功をたて、ついには王座に就いた。
そして、あろうことか……今君は、生意気にも……
私を助けようとしている。

我慢できることではない。助けるのは、私だ! 
君が私を助けるのではなく、私が君を助けるのだ!」
「…………」  韓信は身動きできない。  
しかもこの時点で彼は、眛がなにを言いたいのか
理解できなかった。  
眛は続けて言う。 「私の気持ちがわからぬのか? 
……まあ、いい。それだけ君は無感覚になった、ということだ。

権勢に溺れ、人の気持ちが見えなくなっている。
前に君は私に言ったな。目が濁っていると! 
私は、その言葉を今君に返そう」
「私の目が濁っているというのか。君になにがわかる。
望みもせぬのに人の上に立っている私の立場を、
君が理解できると言うのか」 「生意気な口をきくな! 

助けてやろうというのに」
「……君の手助けを得て皇帝に刃向かう、という考えには
同意せんぞ」 「それが最善と思ったのだが……
君が納得しないのならば仕方がない。
私の首を持って行き、皇帝に媚びるがいい。
だが言っておくが、それはほんの一時しのぎに過ぎん。
いずれ君は、皇帝に滅ぼされるだろう」

――あっ!  鍾離眛の考えにようやく気付いた韓信は、
とっさに彼の行動を止めようとした。  
しかし、一瞬早く眛の剣がその動きを抑え、無言で
動くな、と命じる。
「信。お前は意気地なしで、人が言うほど優れた人物ではない。
私の方が……」  言葉の途中で、眛はそれまで韓信に
向けていた剣を自分に振るい、一気に自らの首筋を切った。
血が奔流のように噴き出し、韓信はその返り血にまみれた。

「ああっ! 眛! 眛! ……うぅ」  
しばらくたってから家令や衛士たちが室内をのぞき込んだが、
その様子は凄惨な血の海であった。
韓信はうずくまり、ぴくりとも動かない。
鍾離眛は仰向けに倒れたまま、やはり動かなかった。
彼らは斬られて血を吹いたのが客人の鍾離眛なのか、
あるいは主君の韓信なのか、即座に判断することが
できなかった・・・

つづく

Author :紀之沢直樹 (野沢直樹)
http://kinozawanaosi.com
http://mypage.syosetu.com/273441/

愚人は過去を、賢人は現在を、狂人は未来を語る

A131


歌は心の走馬灯、歌は世につれ、世は歌につれ、 
  人生、絵模様、万華鏡…


「少年記」




時は絶えず流れ、 今、微笑む花も、明日には枯れる



 

P R

入れてもらえば 気持ちは良いが、
どこか気兼ねな もらい風呂

Dr1
お風呂物語』が選ばれる理由がここにあります。

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