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2016年12月14日 (水)

妄想劇場・漢の韓信-(153) 逆臣とは


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昨日という日は歴史、今日という日はプレゼント
明日という日はミステリー


メジャーでは無いけど、 こんな小説あっても、良いかな
アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい

Kansin

漢の韓信-(153) 逆臣とは

彼らに私を処断する口実を与えないよう、眛の首を
じかに見せてやれば……眛には悪いが……。
しかし、眛はそうしろ、と言った……
一時しのぎに過ぎぬ、とも言ったが……。
「いや、病気を称するのはまずい。私には、こそこそと
逃げ隠れする理由はない。気乗りはしないが、
明日の朝には出かけることにしよう」  

結局家令たちに準備を任せ、韓信はその夜、
いつもより早く眠りにつくことにした。
鍾離眛の首は、道中での腐敗を防ぐために、
家令たちの手によって白木の箱に収められた。  

その夜、韓信はまた、蘭の夢を見た。  
君が夢に現れると、ろくなことが起きない。
そう思いつつも、喜びを感じる。
あるいは眛を失った傷心をいたわるために
蘭が夢枕に現れたのかもしれない、と思ったりもした。  
が、夢の中の蘭とは、会話が成立しない。

また、夢の中の自分が何を語っているのかも定かでは
なかった。  
韓信は寝ているにもかかわらず、その状況にもどかしさを感じ、
夢の中の自分に対して彼女に手を伸ばし、触ることを命じた。
しかし夢の中の自分は、いうことをきかない。  
蘭は生前の印象的な微笑をたたえながら、
近寄っては来てくれる。
しかし、彼女に触れることはどうしても出来ないのであった。

それでも諦められない彼は腕をのばすことを命じ続ける。  
ついにそれに成功した、と思ったとき、彼は目が覚め、
すべてが夢であったことを理解したのだった。
腕は現実の世界で動かせただけであり、
ただ虚空をさまよっていたに過ぎなかった。

彼が残念に感じたことは言うまでもない。  
しかし、彼はそんな自分に対して自嘲的に笑い、
冷静にその事実を頭の中で分析するのであった。  

蘭が夢に現れた翌日には、よくないことが起きる。
これは蘭の魂がまだ生きていて、私に危険を告げている、
ということなのだろうか……? 
いや、そんなことはあり得ない。……馬鹿馬鹿しい。

思うに、危険を感じているのは私自身なのだ。
私は本能的に危険を察知し、夢の中の蘭は
それを象徴しているに過ぎぬ。
しかし、危険を察知したからといって、とるべき対策は
なにもない。  

皇帝の出遊を迎えるだけのために、まさか軍を引き連れて
いくわけにもいくまい。そのような行為は、
かえって疑惑を招く可能性が高かった。
必要最小限、近侍の者しか、今回は連れて行けない。

「……私は、雲夢で捕らえられるかもしれないな……
しかし……その時はその時だ」  
運を天に任すことに決めると、少し気分が楽になった。  

項王は死ぬ間際まで天命を信じ、行動したと聞くが……
なるほど自分を納得させるには都合の良い思考法だ。
韓信はそう考えた後、夢を見ることのない、
深い眠りに落ちた。  

雲夢沢は陳のはるか南、当時淮陽わいようと呼ばれた
地域に属している。  
戦国時代に陳国が滅亡して以来楚の領土であったが、
この時代に韓信が治める楚は、もっと東に領土を移している。
よって当時の都である下邳からは遠く、行程に早馬で
十日前後の日数を要する。

しかしこのとき劉邦は諸侯に現地集合を命じたわけではなく、
先にその手前の陳に集まれ、と命じている。
諸侯が比較的集まりやすい場所に集合場所を設けた形であった。

にもかかわらず、韓信が鍾離眛の首を携えて陳に
到着したときには、誰もまだ来ていなかった。
一番乗りだったわけである。  
皇帝一団もまだ到着していない。
もしや誰も来ないということはないだろうな……。  

自分の留守を狙い、諸侯会同して楚に攻め込もうという
魂胆ではないか、と疑った韓信は、気が気ではない。
先日の夢のことも気にかかる。

しかし、翌日には皇帝が諸将を従えて到着し、
とりあえず安心した韓信は、これを出迎えようと
御前まで近づき、拝跪した。  
この時期の拝跪の仕方は、簡便である。両手を胸の前で組み、
組んだまま頭の上にかざした後、跪いて一礼する。

秦の時代はもう少し複雑な儀礼が定められていたが、
劉邦が関中を制圧した際に自ら簡略化したのであった。  
この二、三年後、儒家の思想に基づいた典礼が細かく定められ、
儀礼は複雑なものになっていく。
そのことが結果として皇帝の権威を高めることに
つながっていくわけだが、まだこの時点では、
韓信のような者にとって皇帝と直接話をすることは、
難しくない。

韓信は、このとき手にしていた鍾離眛の首が入った
箱を前に置き、拝謁した。  
その箱が劉邦の興味を誘ったようである。
「信、それはなんだ」  
韓信は答えた。
「楚の宿将、鍾離眛の首にございます。
逮捕せよ、とのご命令を受け……捕らえた証にございます」  

これを聞いた劉邦は、興味深そうに、
ほくそ笑みながら言った。
「ほう……信、お前が殺したのか?」
「いえ……。彼は捕らえられた後、自害いたしました。
ご確認なさいますか?」

 韓信は箱を開け、中身を見せようとしたが、
劉邦は手を振って、それを拒絶した。
「必要ない。後で確認させるとしよう。
とにかくその箱は魚の腐ったような嫌な臭いがする。
とても臭い!」  

そう言うと劉邦は手招きで近侍の者を呼び寄せ、
箱を持ち去らせた。それを確認した後、
彼は何気ない所作で左手を軽く挙げてみせた。  
するとそれを合図とし、左右から二名の屈強な武士が現れ、
物も言わずに韓信の両腕を押さえたのである。

彼らはそのまま力任せに韓信を地に這いつくばらせた。
「何をする! ……これはなんの真似だ」  
韓信は押さえつけられ、砂にまみれた顔で叫ぶ。
だが二人の武士はなにも答えなかった。  
そして劉邦もなにも言わない。  
劉邦の後ろに控えた将軍たちもなにも言おうとはしなかった。

「最初から……私を捕らえるために、君たちは
ここに来たのだな!」
周勃や夏侯嬰、樊噲などの将軍たちは皆、目を背けて
韓信と目を合わさないようにしている。
韓信は彼らのそんな様子に反感を覚えたが、その中に
灌嬰がいたことを認め、観念した。

灌嬰! お前まで……。見捨てられた気がした。  
しかし、冷静になって考えてみれば、
これも自然な成り行きである。
もともと劉邦の命を受けて韓信に従軍していた彼は、
やはり劉邦の臣下であり、自分の臣下ではない。

個人的に親しい関係ではあったが、公的な立場は違う。
彼が劉邦と自分のどちらかを選ばなければならないとしたら、
文句なく劉邦を選ぶだろう。
自分が彼の立場であったとしてもそうするに違いない。

これからの時代、義侠心では天下を変えることは出来ない。  
それは韓信が鍾離眛を匿いながらも、最後まで
守りきることが出来なかったことにより痛切に
思い知らされたことである。

自分でも出来なかったことが、灌嬰に出来るとは
思えなかったのだった。  
縄で縛られ、車に乗せられた後、両手に枷をはめられた。
かくて虜囚の身となった韓信は、自嘲気味に
自分の立場を言い表したという。

「ああ……やはり人の言っていたとおりだった……
野の獣が狩り尽くされると、猟犬は煮殺される。
大空を舞う猛禽が狩り尽くされると、
弓は蔵にしまわれる。
敵国を滅ぼし尽くすと、謀臣は亡き者にされる……
天下は既に定まったのだから、私が煮殺されるのは
やはり自然なことか……」

劉邦はその言葉に対し、
「君が謀反をしたという……密告があったのだ」  
と答えた
。悪く思うな、というひと言でも付け加えたいかのような
口ぶりであった。

「それは讒言です」 「だが証明する術はなかろう」
「確かに……。ですが陛下も私が謀反をしたという証拠を
お持ちではないでしょう」
「証拠がないということが、お前の無実を証明することにはならん。
密告書には、お前がいたずらに軍列を組んで市中を巡回し、
城中の市民を恐怖に陥れたと記されてある。
そして、天下が定まった後、不必要に軍容を見せつけるのは、
謀反の意志の現れだとも記されてあった」

「それはそいつの私見というものです。
……要するに、私は憶測で逮捕されたのですな。
つまり、謀反の可能性があるから、と。しかし
言っておきますが、可能性なら誰にだってあるのですぞ」

「確かにそうかもしれないが、並みいる諸侯の中で、
お前がいちばん実行力があることは間違いない」
「では、やはり私は可能性で逮捕されたのか。
単なる可能性で……」

それを最後に韓信は口を噤んだ。もはやあきれて物も言えない、
という心理だろうか。  
会話が途絶えたのを機に、韓信を乗せた車は静かに走り出し、
雒陽へ進路をとった。
その後、黥布や彭越などの諸侯が陳に到着したが、
彼らが揃って雲夢沢に行くことはなかった。
急遽出遊の取りやめが宣言されたのである。

諸侯たちは皆、この場に韓信がいないことに
その原因があるに違いないと思ったが、
それを口に出して言う者はなかった。
韓信の受難は、彼らにとって決して対岸の火事では
なかったのである。・・・

つづく

Author :紀之沢直樹 (野沢直樹)
http://kinozawanaosi.com
http://mypage.syosetu.com/273441/

愚人は過去を、賢人は現在を、狂人は未来を語る


「ふたりの明日」



歌は心の走馬灯、
歌は世につれ、
世は歌につれ、 
人生、絵模様、
万華鏡…







A131



時は絶えず流れ、 今、微笑む花も、明日には枯れる



P R

カビの生えない・きれいなお風呂

お風呂物語

入れてもらえば 気持ちは良いが、
 どこか気兼ねな もらい風呂


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『お風呂物語』が選ばれる理由がここにあります。

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