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2016年12月 2日 (金)

信じれば真実、疑えば妄想・・・夏の夜のまりつき

信じれば真実、疑えば妄想・・・


人生は何事もなさぬにはあまりにも長いが、
  何事かをなすにはあまりにも短い。

B13

まりつき -夏の夜-

その年の夏、 俺は大小様々な 不幸に見舞われていた。

B17

それは、私が20歳の夏の出来事であった。
お盆だと言うのに、私は先祖の墓参りもせず、
友人と遊ぶ事に夢中だった。私を含め男女2名ずつ
計4名を乗せた乗用車は、茨城県のとある海岸からの
帰り道、水戸街道を東京方面に向けてスピードを
上げていた。   

その日、私は友人の隆二に誘われて、隆二の車で
茨城県の海岸へ海水浴に行っていた。
私も隆二も、千葉県松戸のアパートで独り暮らし、
昼間は35度を越える狭い部屋にいるよりは、
海にでも出かけ、若い女をナンパしていたほうが
いいに決まっていた。

夏の海と言えば、湘南か三浦海岸なんだろう。
しかし、ナンパ最中に女から「どこから来たの?」と
聞かれたら、「松戸」では成功の確率は低かった。
一方、茨城の海岸に来ている女にとって、松戸は
都会だ。隆二の車が、いくら中古車のエアコン無しでも、
帰りに同乗する女はいるだろうと考えた。   

私と隆二が茨城県の海岸に着いたのは、もう、
昼をとっくに回っていた。まず、私たちは海水に浸かり、
汗を流した。周りを見回すと、どこも家族連ればかりだった。
湘南や三浦海岸とは雰囲気が全く違っていた。
男二人、砂浜をゆっくり歩き始めた。7、8分ほど
歩いただろうか、珍しく若い女が二人、砂浜に
寝そべっているのが目に入った。

私と隆二は、互いに顔を合わせ、目で合図をして
彼女たちに近づいた。まずは、いつもの様に
隆二が声を掛けた。そして、彼独特の話術によって
我々は意気投合していった。

隆二は、慣れていると言うのか、天才とも言うのか、
ナンパの成功率は高いものがあった。   
彼女たちは二人とも、うつ伏せで寝そべり、
背中に太陽の陽を浴びていたので、我々は
二人の顔を見ないまま声を掛けた。

もし、我々が彼女たちの顔を見ていたら、そのまま
通り過ぎていたかもしれない。しかし、話していて
楽しい二人を、我々は車で送ることとなった。   

彼女たちの名前は、佐和子と美香と言い、
茨城県の土浦から来たそうだ。土浦は、
私と隆二の住んでいる松戸とこの海岸のちょうど
中間に位置していた。   

台風の影響か、天気は良く、気温は高くても海の波は
高かった。海岸では黄色い「遊泳注意」の旗がパタパタと
音をたてていた。波打ち際で砂遊びをしている子供は
いるものの、さすがに沖まで泳いでいる人影は
見られなかった。

午後4時を回った時だった。私たち四人の楽しい会話は、
レスキューの緊張した叫び声にかき消された。
誰かが沖に流された様子で、真っ黒に日焼けした
レスキューの数名が、私たちの横を走って通り過ぎた。
私たちの会話は、すっかり暗くなり、言葉数も
少なくなっていった。

しばらくして、一人の男性が海から担架に乗せられて
海岸近くにまで乗り入れた救急車の中へと運ばれて
行くのが見えた。運ばれている男性には毛布が
掛けられていたが、右足半分が担架からはみ出て、
ぶらぶらしているのが見えた。その足は真っ白で、
すね毛の黒と混ざり合って灰色にも見えた。

この不気味な光景が、後の我々に襲い掛かる恐怖の
前触れだったとは、誰一人気付いていなかった。   
その後、私たちは早々に海を後にした。そして、
水戸の街に立ち寄り、喫茶店で軽く食事をしながら、
芸能界の話題などを話していた。

中でも、美香は芸能情報に詳しく、彼女の解説が
始まったら、誰も止めることは出来なかった。
皆が話し疲れた頃、私たちは閉店と共に喫茶店を出た。

たぶん、時間はすでに夜11時を過ぎていたのかもしれない。
車は10分程して、水戸市内の市道から国道に出た。
その夜も熱帯夜のせいか、車に入り込む重たい風が
私たちに睡魔をもたらし始めた。
深夜零時をまわったせいか、それとも、世間が
お盆休みとなっている為か、いつの間にか私たちの乗る
車の前後には、1台の車もいなくなっていた。

車は隆二がハンドルを握り、助手席には佐和子が、
その後ろの席に私が、そして私の隣には美香が座っていた。
佐和子  「ねぇ、このラジオ、つまらないよ」
隆二  「じゃあ、音楽でもかけようか?」 佐
和子  「あたし、少し寝るから、何もかけなくていいよ」
私は、ふと隣の美香の顔を覗き込んだ。美香は
すでに眠っている様子だった。   

今から30年前の車となると、まだ、エアコンの無い車も多く、
特に我々若者が乗れる中古車ともなると冷房無しが
当たり前であった。従って、助手席の佐和子は
窓を全開にし、シートをおもいっきり倒して眠ろうとしていた。

おかげで、佐和子の頭が後ろにいる私の顔の
近くにまで来ていたが、窓から入って来る風は、
何故か心地好いだろう彼女の髪の香りまでは
運んでくれなかった。   

佐和子が眠ろうとして5分ほど経ったであろうか、
車はある街の商店街を通っていた。
そして、私たちの車はそこの小さな交差点の信号で
停止した。相変わらず、私たちの乗った車の前後には
他に車は無く、対向車さえ1台も見ることは無かった。
商店は、どこもシャッターを降ろし、眠りについた街には
薄暗いオレンジ色をした街路灯の明かりだけが灯っていた。

佐和子 「あー、、、なんだか、蒸し暑くって眠れないわ」
隆二  「すまんね・・・、エアコン無くって・・・」
そんな二人の会話が終わろうとした時、私と佐和子は
道路の左端に眼が行った。
佐和子 「あれ? なんで今頃? あの子、何してんだろうね」   

なんとそこには、5歳くらいの少女が、独りでまりつきを
していたのだった。それも、少女は昔の着物姿で
黙々とマリをついていたのだった。
おかっぱ頭の少女は赤いほっぺをし、靴は履かず、
ハダシの様子だった。

その子は、まさに、昭和の初期、或いは大正時代であろう
古い映像によく出てくる子供の様子にそっくりだった。
隆二  「この信号、長いなぁ・・・」   
佐和子が少女を見ていると、その子は急にまりつきを止め、
ゆっくりと青白い顔を上げて佐和子を見た。
その目は細長く、上目づかいの表情は老婆の様で、
あどけない子供の表情とはかけ離れていた。
そして、恨めしそうな少女の眼差しを浴びたとたん、
佐和子の全身に鳥肌がたった。

佐和子は、つかさず少女から目をそらし、急いで車の
窓の取っ手を回し、ウィンドウガラスを閉めた。
佐和子 「早く、早く車、出してよ」
佐和子を見つめた少女の顔は、恨めしそうな表情から
次第に笑顔と変わっていった。そした、少女は
笑顔を浮かべながらゆっくりと私たちの車に近づいて来た。

佐和子 「何してんのよ。早く車出してよ」
隆二は、佐和子の悲鳴の様な叫びに驚き、
赤信号にもかかわらず交差点を急発進した。
佐和子 「やだ、やだ、あの子ついて来るよ」
なんと、赤いゴムまりを抱えた少女は、微笑みながら
小走りに佐和子の方に近づいて来るではないか。
そして車はどんどん加速するのであったが、
少女は遠ざかるどころか、次第に佐和子の横へと
近づいて来た。

佐和子 「やだ、やだ、もっと、もっと速く、速く・・・、
来ないで、来ないでよ!」
美香  「キャー! 助けて・・・」
佐和子の声は悲鳴と化し、美香は大声で泣き叫んだ。

隆二  「なんだ、これは!」   
車はぐんぐんスピードを上げた。しかし、
泣き顔に変わった少女の顔は、とうとう佐和子の
顔の横のガラスの向こうにぴたっと止まり、
車内にいた私にも怒号の様な少女の大きな泣き声が
聞こえてきた。そして、その少女は、閉まっている
窓ガラスを開けようとする様にして、佐和子のすぐ横の
助手席の窓ガラスに小さな手を付いたのであった。

なんと、その爪を立てた小さな手のひらは、真っ赤に
血に染まっていたのだった。   
その瞬間、ドスーンという鈍い音と共に、フロントガラス
中央に人の頭ほどのひびが網目状に広がった。
そして、そこには、中心に突き刺さる様にして、
さっきの少女の顔だけが存在していた。
少女の口元は苦しそうにゆがみ、血が滴っていた。
更に、その眼差しはまばたきもせず佐和子を
食い入る様に見つめていた。  

急ブレーキで止まった車の中で、隆二は少女の血で
べとついたハンドルを握り締めたまま、震える声で
つぶやいた。
隆二  「やってしまった・・・」
美香  「救急車、救急車、110番! 誰か来て!」   
私の横で美香が叫び、私は我に帰った。
佐和子は震えながら自分の膝に顔を埋め、
起き上がろうとしなかった。

また、隆二も放心状態で、彼の手は赤く染まったハンドルを
ぎゅっと握ったままだった。   
しばらくして、私はそっと車のドアを開け、ゆっくりと外に出た。
車外は、いつの間にか立ち込めた夜霧が街路灯のランプを
より薄暗くさせていた。車は、左前輪を歩道の縁石に
乗り上げた状態で止まっていた。
しかし、よく見ると、車には傷ひとつ無く、ましてや、
車のフロントガラスも全くの無傷であった。そして、
あの少女の姿も見えなかった。   

車の窓を半分開けて私の様子を見ていた美香も
車から降り、さっき起こった状況と今見ている現状に
困惑していたが、すぐさま、半分開いた車の窓越しに
震えた小声で言った。

美香 「ねえ、ねえ、・・・、車、なんともないよ。
何も起こってなかったんだよ。大丈夫だから・・・」 そ
して、四人全員が、我に帰った。

隆二 「いったい、何だったんだ」
佐和子 「なんでもいいから、早く帰ろうよ」   
乗り上げた歩道の縁石から車が車道に下りた時、
対向して来た1台のトラックが私たちの車の横に止まった。
そして、その運転手が窓を開け、私たちの車の中を
覗き込んだ。

四角い顔の髭の濃い、三十代半ばであろう男は、
茨城弁で言った。 男  「どうかしたっぺか?」
隆二  「いいえ、なんとも無いです」
男 「いちゃいちゃしながら運転すんじゃねーぞ。
命、いくらあってもたんねーぺや」   
そう言い残すと、トラックは勢い良く走り去った。

そのトラックとそれを運転している男は、明らかに
この世の存在であり、現実と言うものであった。
この感覚は言葉では言い表せない、何か、
体温と言うものを感じたのだった。
そして、不思議にもほっとした一瞬でもあった。

そのトラックが50メートル程走った時である。
トラックは何故か、急ブレーキをかけて停止した。
何かあったのかと思い、私はそのトラックの元に走り寄った。
そして運転席を覗き込んだ。そこには、さっきの髭の濃い男が
座っていた。しかし、彼は口元に泡を滲ませ、言っていた。

男 「やっちまった・・・、あぁ・・、やっちまった・・・」   
しかし、トラックには傷ひとつ無く、何かにぶつかった
形跡は無かった。それでも、そのトラックは動こうとは
しなかった。
再び私の全身に鳥肌が立った。私は無情だが自分たちの
車に走って戻り、私たちは急いでその場を後にした。

私たちの車内は、無言のまま誰一人眠りに着く事も無かった。
車が土浦に近づく頃は、うっすらと夜も明けていた。
私と隆二は、佐和子と美香を降ろす為、土浦駅近くの
交差点に車を止めた。この交差点では、
「生」と言うものを感じた。まだ、
夜明け直前のためであろうか人影は無いものの、
何か「命」というものが感じられた。まさに、街自体に
体温を感じ、それが私たちの心に安心感を与えていた。   

私と隆二は、特段、彼女たちの住所を聞いたり、
次回のデートを求めたりはしなかった。また、彼女たちも同様、
我々に住所を聞いたりはしなかった。
私たちは皆、昨夜の恐ろしい出来事の事など、
口に出す事はなかった。と、言うよりも、一刻も早く
忘れたいと言う気持ちの方が強かった。

佐和子  「ありがとね・・・」 そう言い残すと、
佐和子と美香は静かに車から降りた。
私も車から降り、佐和子と美香を見送った。
そして、身体の伸びをした後、今度は助手席に乗り込んだ。
私と隆二が松戸に着く頃、いつもの夏の様に気温は
ぐんぐんと上がっていた。閉めていた車の窓も開けずには
いられなかった。   

車が止まり、私は開いていた車の窓を閉める為、取っ手を
ぐるぐる回した時である。上がって来るガラスと共に、
あの少女の赤い手の平の跡も窓ガラスと共に
するすると上がって来た。   

この出来事から30年が経った今、私は彼女たちが今、
どこで何をしているのかなど知らない。
今でもあの夜の出来事を覚えているのかと、
聞く術も分からない。   

この出来事以来、何故か隆二に不幸が続いた。
彼は、同じ年の末、故郷の広島に戻った。
それ以来、彼とは音信不通となってしまった。だから、
今でもあの世の出来事を覚えているかなど、
聞くことも出来ない。私は私なりにこの体験を
心にしまっておこうと思っている。

そして、お盆には、必ず先祖に手を合わせることを忘れない。  
さあ、窓のカーテンを開けてみてください。
誰かがガラス越しにあなたを見ているかもしれません。

終 

夢庵壇次郎
http://www.ne.jp/asahi/muan-danjiroh/jp/


歌は心の走馬灯、歌は世につれ、世は歌につれ、
  人生、絵模様、万華鏡…

おれでよければ





B212



 
P R
 
      
カビの生えない・きれいなお風呂
 
       
お風呂物語
 
 
入れてもらえば気持ちは良いが、
    どこか気兼ねなもらい風呂
 
  Dr1_2

  『お風呂物語』が選ばれる理由がここにあります。
 

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