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2017年1月 2日 (月)

妄想劇場・漢の韓信-(154) 逆臣とは


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昨日という日は歴史、今日という日はプレゼント
明日という日はミステリー


メジャーでは無いけど、 こんな小説あっても、良いかな
アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい

Kansin

漢の韓信-(154) 逆臣とは

陳から雒陽まで運ばれる間、韓信はあまり自分の
不遇について考えないようにした。
考えるほど深みにはまって抜け出せなくなり、
ついには狂人となってしまうと恐れたのである。  

道中空腹を感じたが、それも忘れるよう努力した。
手枷をはめた状態では、自分で食物を口に運ぶことは
出来ない。他人の手で食わせてもらうことを想像すると、
このうえもない屈辱を感じるのだった。  

車窓から外の様子をうかがうと、自分を護送する部隊が
ひどく小規模であることに気付いた。
目立たないように配慮された結果かもしれないが、これも
彼としては不満である。  

舐められたものだ。  
武芸にもある程度の自身を持っていた彼は、自分に対する
警戒が甘いことに対してそう感じる。  しかし、もともと
叛逆する意志がなかったことを思えば、このような不満を
持つことはおかしい。あるいは自分はここで剣をふるって
ひと暴れし、ひとり叛逆するつもりなのか、と
自問してみたりした。  

しかし、そのような行為は叛逆とはいえない。それは単なる
収監を恐れた受刑人の脱走行為であり、仮にも
王を称する者のとるべき行動ではない。
やってしまいたいという衝動がないとは言い切れなかったが、
その後のことを考えるとためらわれた。  

性格的に無計画なことを嫌った彼は、事態をただ
受け入れることに徹することにしたのである。
しかし、これも自分の将来が見えなかったことに
変わりはないので、やはり無計画であった。  

だいいち、手枷をはめられた状態で何が出来るというのだ…。  
反抗を諦めた彼は、心の中の不満を和らげるよう、
考え直すことにした。護送を指揮する士官は、優秀で
皇帝からその能力を信頼されている者であるに違いない、と。
囚人が暴れだしても落ち着いて対応できる能力を
持っているからこそ、このような小部隊で自分は
護送されているのだ、と考えるようにしたのである。  

雒陽の手前、潁水えいすいのほとりの許の城外で、
一行は小休止をとった。ここで韓信はその士官と
実際に話をすることになる。
「お疲れでしょう」  動きを止めた車の中に乗り込んできた
その士官は、そう言いながら一皿の食事を差し出した。  
しかし、その皿には鳥の干し肉を焼いたものが一切れだけ
のせられているだけだった。

「なにぶん食料の蓄えが少なく……申し訳ありませんが
これで我慢してください」  士官は、そう言いながら
韓信の手枷を外した。
「いいのか? 枷を外したりして……。私の腰には
まだ剣があるのだぞ。もし私が剣をとり、暴れだしたら
どうする気だ」

「……困ります。しかし、大王はそんなことはなさいますまい」
「確かにここで君を殺したとしても、逃亡の日々が
待っているだけだ。私はそんなことはしない。
もともと無実なのに、いまここで剣を振るえば、私は
本当の意味で犯罪者となってしまうからな」

「その通りでございます。それに私は、危険だからといって
大王の剣を取りあげるわけには参りませぬ。
その剣は、大王の武勇の証。ひいては今ここに
天下が定まったのも、大王のその剣が折れることが
なかったからでございます。どうしてその剣を
私が取りあげることができましょう」  

士官の表情には、韓信を恐れている様子はなかった。  
かといって憐れんだ目で見ているわけでもない。
それとは逆に、かつて不敗を誇った韓信と直に会話できることを
純粋に喜んでいるようであった。

「君は気が利く男のようだな。実をいうと私はいま
腹が減って仕方がなかった。しかし人に食わせてもらうのは、
私の矜持が許さない。この手枷をどうしたものかと
考えていたところなのだ。それを君はいとも簡単に外してくれた。

……これは私を信用する、ということなのか」
「信用するもなにもありません。大王は、無実なのですから」
「……ああ、そうだ。しかし、政治というものはときに無実の者を
獄に落としたりする。私はそのいい例だ。

あるいは私のような者が生き残り、好き勝手に
振る舞うことは天下の平和のためには障害となるのかもしれぬ。
悪いことは言わない。私にあまりよくしてくれるな。
君の立場を微妙なものにしてしまう」  

そう言って、韓信は鶏肉を食べ始めた。
雒陽に着いたら即刻牢獄に入れられて、満足な食事は
出来ないかもしれない。量は少ないが、
よく味わって食べたいものだ。

「大王は……今後のことが恐ろしくはないのですか」  
しかし士官は質問し、食事に集中させてくれない。
「それは……私だって人並みには恐ろしいさ
。しかし……これは天罰かもしれん。
やれ不敗だの常勝だのと言われたって、
私のこれまでしてきたことは、人殺しに他ならない。
私に殺されてきた者たちは、皆等しく恐ろしかったに
違いないのだ」

「しかし、大王は使命としてそれをやってきたに過ぎません。
それをするように命じたのは皇帝であり、
天罰を受けるとしたら、大王ではなく皇帝ではないでしょうか」  
韓信はその言葉を聞き、もはや食べてはいられなくなった。
「……君のことを私は皇帝の忠実な臣下だと見ていたのだが
……君はすべての罪が皇帝に帰せられるべきだというのか。

めったなことを言うものではない。首が飛ぶぞ」 「
確かに私はいままで忠実に皇帝にお仕えしてきました。
それを正しいことと信じ、疑うことをしてきませんでした。
……しかし、今に至って言えることは……
この王朝は駄目だ、ということです。

宮中はすでに戦後の利権を貪る輩で埋め尽くされ、
陛下ご自身も自分だけの国家を作ることしか頭にありませぬ。
……私欲のかたまりでしかありません」
「…………」 「そもそも建国のために命を賭けた
大王のようなお方を捨て駒にする王朝に未来があるとは、
どうしても思えませぬ」

「君は……皇帝の味方なのか、それとも私の味方なのか」
「……現時点では皇帝の臣下であることには違いありません。
ですが、私は以前から大王のことを尊敬して参りました。
いつか、お近づきになりたいとも……」
「……では聞くが、私がついに皇帝に叛くと決めたときには、
君は力添えをしてくれるか? ……いや、例えばの話だ」

「そのときは、謹んで馳せ参じます」
「……その時が来るかどうかはわからない。
私は明日にでも殺されるかもしれないのだ。
もし、生き残ることができたら……
そのようなときも来るかもしれない。君の名を聞いておこう」

「……陳豨ちんき。陳豨と申します。
梁の宛胊えんくに育ちました」
「うむ。覚えておこう」  このとき、韓信は本当に陳豨とともに
皇帝に叛くと決めたわけではなかった。
そんな先のことよりも、明日、まだ自分の命があるかどうか
……そのことの方が喫緊の課題だったのである。  

つづく

Author :紀之沢直樹 (野沢直樹)
http://kinozawanaosi.com
http://mypage.syosetu.com/273441/

愚人は過去を、賢人は現在を、狂人は未来を語る


「昭和放浪記」



 歌は心の走馬灯、
 歌は世につれ、
 世は歌につれ、 
 人生、絵模様、
 万華鏡…









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