« 妄想劇場・漢の韓信-(168) 悪意の絆… | トップページ | 妄想劇場・チャンネルニュース・掲示板 »

2017年4月 7日 (金)

妄想劇場・番外編・「Bitter Moon 〜蜜月の逆説〜 

V0151111115


なぜ、美人はいつもつまらない男と結婚するんだろう?
賢い男は美人と結婚しないからさ。・・・



181011


Bitter Moon 〜蜜月の逆説〜 

銀地にブルーのラインが入った新車両に揺られて、
暗い色の屋根が密集する郊外を通り抜ける。
その見慣れた光景が、どういうわけか胸をつく。
土曜の昼間のくだり電車は、人がまばらだ。
車両の隅で乱暴に足を投げ出しても、
あまり迷惑にはならない。

どうして、こんなことになったのだろう?
幸せをつかむために、一生懸命
生きてきたつもりだった。
そこそこ平和な家族がいて、人並みに就職して、
人並みに結婚する矢先だった。

(そうか、私の人生は今までが幸せすぎたんだ。
そのツケが、今、まわってきたんだ・・。)
車窓を流れる長閑な風景を見ていると、
頭の中がぼんやりと休まってくる。
落ち着いて深く呼吸をすると、少しだけ冷静に
正志の言葉を呑み込むことができた。

便利な女,、正志の考えは、間違ってはいない。
正志が自分のことを好きだから結婚を
申し込んだなんて、都合のいい妄想だったのだ。

だが、悔しい。これから半世紀一緒に過ごす
相手に、一生「便利な女」扱いされなければ
ならなかったなんて。
正志に尽くすのは務めだと思っていた。
だが、それに対する感謝もなく過ごさねば
ならないなんて、なんと空しい人生になるだろう。

でも・・・。式を1ヵ月後に控えて、
病気のことがなかったら、結婚をやめようと
思うだろうか。世間体を気にする正志が
許さないとは思うが、瑤子もこの期に及んで
「婚約破棄して。」とは言えない気がする。

正志に対し、自分を「便利な女」扱いしたことを
責めても、正志は上手い言い逃れをして、
瑤子を丸め込んでしまう気がする。それもそれで、
腹立たしい。

私、あと半年の命なの。 
そう告げたら、正志はどんな顔で、何と言うだろう。
知りたい。だが、冷たい返事で止めを刺されるのは、
怖い。

瑤子が正志を選んだ理由の一つは、正志が
自分に似ているからだ。
特に、悲しさや辛さといった負の部分の感じ方が
同じだから。
同じ悲しみを共有できる相手に、瑤子はこれ以上ない
魅力を感じる。そして、負の感じ方が似ているがゆえに、
冷酷な性格もよく似ている。

瑤子は、一度見捨てた相手には徹底的に
冷酷になる。情の欠片も残さずに、だ。
そのやり方、冷たい眼差し。正志のそれを見たとき、
瑤子は自分の影を見たような衝撃に襲われた。
だがその分、悲しみを感じる時も互いに
敏感に読み取れた。

初めてキスをしたときも、初めて夜を共に
したときも、そんな心の琴線に触れたときだった。
だから、正志は好きとか嫌いとか、
そんな次元だけでは片付けられない相手なのだ。

そのかけがえのない相手の気持が、自分と
同じではないことを知ってしまった。
正志は、どんな思いで睫毛を伏せ、唇を
重ねられたのだろう。

半端な「好き」ぐらいでは男の腕を受け入れられない
瑤子の鉄壁を、あっさり越えてきた正志。
彼は、どんな思いで自分を抱いていたのか。
すべて。すべて、便利な女を手に入れるための
手段だったのか。

声にならない悲痛な溜息をついて、瑤子は
額を抱えた。そんな風に、考えたくない。
だが、正志の言葉は真実で、そこから推察
できることも、真実に限りなく近いと思う。

瑤子は最寄の駅を過ぎても、電車から
降りることができなかった。
終点までたどり着こうと、折り返して再び東京へ
進もうと、どうでもいいと思った。
もう、今、地球の終わりが来てもいいとさえ思った。

(こんなに・・・。)瑤子は、奥歯と一緒に苦い思いを
何度も噛み締めた。
(こんなに、好きでなければよかった・・・。)

病院から入院の催促をされながらも、瑤子は
その返事をのばし延ばしにしていた。
結婚をどうするかという問題の答えが出せないのに、
入院なんかできない。長年の体調不良に
少しずつ慣らされてしまった瑤子の身体は、
今更すぐ、どうということにはならない。

次に正志に会ったときの瑤子の表情は
重苦しかったが、正志がそれに気付くことは
なかった。

その日は正志の家で、両親を交えながら
挙式の最終打ち合わせをした。
正志の母親は瑤子を非常に気に入って
くれていて、いつも優しい笑顔で歓迎してくれる。

結婚後どうなるかはわからないが、世には
姑問題で泣いている嫁が多いらしいのだから、
瑤子は幸せな身分なのだろう。

「瑤子さん、夕食召し上がっていらしてね。」
「はい、ありがとうございます。」
こんな状況で「実は半年後に死ぬんです。」
なんて言えるわけがない。

理由も言わずに「結婚をやめたいんです。」
なんて、言えるわけもない。
もちろん、瑤子の病気を知れば、婚約破棄も
式の取り止めも、多くの同情の中で滞りなく
進められるのだろう。だが、それが躊躇われる。

その日の帰り、正志が駅まで瑤子を送りながら
言った。「なんか、不満があるのか?」
「え?」突然の言葉に、瑤子はどきりとした。
「この前の晩も、話があるって言ってたのに
言わなかっただろう?

今日もずっと不機嫌そうな顔だったし。
一体、何なんだよ。」
こんなに重い秘密を抱えているのに、どうして
機嫌よく笑っていられるだろうか。どうして
重い秘密を、そう簡単に口にできるだろうか。

もちろん、瑤子が理由を説明しなければ
正志が理解できるわけはない。
だが、瑤子の気持ちを察することなく一方的に
責める正志に、瑤子は腹立たしさを感じた。
思わず、口を尖らせてしまう。

「・・別に。」
「別にって、そういう言い方、俺が一番嫌いなの
知ってんだろ?」
先を行く瑤子の腕を、正志が無理に掴んで
引き止める。
「俗に言うマリッジブルーだなんて言うなよ。」

「・・・なぜ?」
「くだらないからさ。その辺に転がってるような
女と同じようなことを言うなよ。」
瑤子は、正志の手を強引に振り払った。
「あなたは、私に何を望んでいるの?
私にどうしろというの!」

予想以上の瑤子の激しい反応に、正志は
戸惑いの色を隠せなかった。「・・・一体、
どうしたんだよ。何が気に入らないんだ?」
冷静な正志の唇を見つめながら、瑤子は
もどかしさを呑み込んだ。

今なら、言えるかもしれない。泣きながら、
自分があと半年の命だと叫べるかもしれない。
そして今が、その最後のチャンスかもしれない。
そしたら、正志は自分の細い身体を
抱きしめてくれるだろうか?

いや。自分に対して愛情のない正志が、
そんなことをしてくれるわけがない。
そんな期待をして裏切られたら、それこそ
悲しみのどん底だ。

瑤子は再び正志に背を向けた。
「気に入らないことなんかないし、
私はどうもしていないわ。・・・もう、ここでいい。」
セリフの最後が、震えていたかもしれない。

振り向きもせず駅に向かって走り出した
瑤子の瞳からあふれ出したのは、
とめどない切なさ。正志への、片道の思い。
その行き場のない思いが耐え切れずに
涙とともに吹き出した
・・・

つづく

Author :井浦美朗( イウラミオ)
http://mypage.syosetu.com/

性別: 女性; 血液型: AB型;


A71211


歌は心の走馬灯、歌は世につれ、
 世は歌につれ、
  人生、絵模様、万華鏡…



細雪






P R : 

G・ブラックコート  

黒の復活(黒のコーティング)

G02

未塗装樹脂部分の白くなっている
箇所を→ 黒くします。



« 妄想劇場・漢の韓信-(168) 悪意の絆… | トップページ | 妄想劇場・チャンネルニュース・掲示板 »

妄想劇場」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/1772781/70185779

この記事へのトラックバック一覧です: 妄想劇場・番外編・「Bitter Moon 〜蜜月の逆説〜 :

« 妄想劇場・漢の韓信-(168) 悪意の絆… | トップページ | 妄想劇場・チャンネルニュース・掲示板 »

流れ雲(^o^)

ウェブページ

無料ブログはココログ

最近のトラックバック

最近のコメント

2017年5月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
フォト