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2017年5月10日 (水)

妄想劇場・番外編・「蜜月の逆説」

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なぜ、美人はいつもつまらない男と
  結婚するんだろう?
賢い男は美人と結婚しないからさ。・・・



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「Bitter Moon 〜蜜月の逆説〜 

次の朝、正志は6時に起床していた。
目覚めてから起き上がるまでに時間を要する様に
なった瑤子は、廊下の物音で「早くしなければ。」と
無理に身体を奮い立たせた。
パジャマのままでリビングをうろつく行為を嫌う
正志のために、何とかシャツとスラックスを身につける。

お湯を沸かす正志は、もうネクタイを締めていた。
後から来た瑤子を一瞥すると、「本当に主婦っていうのは、
いい身分だよな。」とぼやいた。
その嫌味に胸の痛みを感じながらも、すぐ冷蔵庫の中を
覗きながら言った。

「喘息の発作は、大丈夫なの?」
「あんまり。だけど、休めないからな。」
こういう場面だと、ドラマやCMでは妻が夫に
「今日くらい休めないの?」と訊ねる。
瑤子はそういうシーンをテレビで見ながら、
絶対そのセリフは言うまい、と思っていた。

休めるくらいなら、ちゃんと休むだろう。
仕事をしていれば、毎日その日に片付けるべき
ノルマがあって、それを自分がやるしかなく、
自分がやらねば他人に迷惑をかけてしまう。

それが許されるか許されないか考え、
出社せねばと思うから病気をおしてでも立ち上がるのだ。
「休めないの?」なんて言葉は、思いやりではなく
呑気な主婦のセリフとしか思えない。
ずっとそう思ってきたから、正志を送り出す。

瑤子は軽く咳をしながら、朝食を作り始めた。
正志は紅茶を入れながら、「風邪か?」と訊いてきた。
「ううん、違う。」
「なら、いいけど。この上風邪うつされたらかなわないからな。」
「・・・気をつける。」
瑤子は、唇を噛み締めた。正志が心配なのは、あくまで
正志自身のことなのだと思うと、悔しい。
思わず、言ってしまいたくなる。
”私はあなたと違って、死がせまっているほどの
重病なのよ”・・・と。
そのセリフをグッと呑み込むのは、後の報復を
大きくするため。そう決意しながら、包丁を握って
野菜を刻む。

ある夜、正志は思いがけない客を連れて帰ってきた。
高校時代のクラスメイトで、正志の親友の康之だ。
「やあ、瑤ちゃん。ごめんね、突然。」
昔のままの人懐っこい笑顔。とりたててハンサムでは
ないのに、すごくもてていたことを覚えている。
でも、プレイボーイではない。

一時期、瑤子の友人の彼氏だった時期もあり、
正志よりもずっと近い位置にいた男子だった。
康之は医師。父親の経営する病院に勤めている。
3年前に、大学時代の同級生と結婚した。
3人で食卓を囲みながら、康之はちょっと
苦笑いをして言った。

「なんか、全然新婚の臭いがしないな。」
正志は、小さく笑った。
「なんだよ、それ。」
箸の先を振りながら、康之はつまらなそうな声をあげる。
「だって、結婚式からまだ1ヶ月経ってないんだぜ?
なのに、全然ラブラブじゃないじゃん。」

「俺も瑤子も冷めてる性格だし、イチャつくの嫌いだし、
わかるだろ?」
「うー・・・ん、そうじゃないんだよな。どっちかっていうと、
夫婦に見えない。他人の男女がたまたま一緒にいます、
みたいな雰囲気しか感じられない・・・。」

康之は、鋭い。10年以上のつきあいは、伊達ではない。
「おい、正志。お前、ちゃんと瑤ちゃんのこと
大切にしてんだろうな。」
グラスを持った正志の表情は、うかがい知ることができない。
康之は、瑤子に言った。
「瑤ちゃん、正志に苛められたら、いつでも家に
避難しておいで。妻と子どもと、歓迎するからね。」

康之の言い方が可笑しくて、瑤子は小さく笑った。
康之は、正志の手からグラスを取り上げ、
強い口調で言った。
「正志。瑤ちゃんは、辛いとか、悲しいとか、嫌とか、
駄目とか言わない性格なんだから、ちゃんとお前が
察してやんないと駄目なんだぞ。わかってんのか?」

「・・・わかってるよ。」
睫毛を伏せた正志の唇の端は、微笑んでいるようにも、
嘲笑しているようにも見えた。
その時、正志の携帯が鳴り、正志は席を立って部屋を
出て行った。

すると康之は、瑤子に一枚の名刺を差し出した。
そこには、康之の一族が経営する病院名と
住所が書いてあった。
「近いうちに、おいで。」
「え・・?」
「今、どっかの病院に通ってんのかもしれないけど、
一度、俺に診せて。」

瑤子は、ドキリとしながらも、首を振った。
「私、別に・・・。」
「俺の思い過ごしなら、それでいいんだ。
でも、放っておいたら後悔しそうだから。」
瑤子は、思わず康之の腕をつかんだ。
「何も言わないでよ?正志には何も言わないで。
絶対、絶対に、何も言わないで・・!」

康之は驚いたように目を見開き、顔色を変えた。
それを見た瑤子は、逆にハッとして口を噤んだ。
これでは、正志に隠し事があることを暴露したと同じだ。
そこへ正志が戻り、康之も瑤子も何事も
なかったように表情をもとに戻した。

その後、康之と正志は談笑し始め、瑤子は
食器を片付けたり、二人のために飲み物を用意した。
正志が酒を飲まないため、康之もそれに付き合って
専らコーヒーやお茶を飲み続けている。
時間が経っても二人の話は尽きないらしく、
正志は瑤子に「康之の寝場所を用意して
くれないか。」と声をかけた。

お客様用の布団ね?どこに敷けばいいの?」
すると、康之は素早く立ち上がった。
「あ、場所さえ教えてくれれば俺、自分でやるよ。」
「大丈夫だよ、俺の部屋の押入れに入ってるんだし。」

「じゃあ、手伝う。ただでさえ新婚夫婦の新居に
泊まるなんて図々しいのに、新妻にその準備を
させるなんてもっと図々しいからな。」

康之は半ば無理やりといった感じで、
瑤子についてきた。
正志の性格どおり、部屋は綺麗に片付いている。
押入れの中も整頓されていて、客用の布団は
すぐわかるところに仕舞ってあった。

瑤子が手を伸ばそうとすると、康之がそれを制した。
「俺、やるから。おとなしくしてて。」
「・・・でも、」
「身体、だるいだろ?重いものなんか、
持たせられないよ。」
瑤子は、康之には隠しておけないのだと覚悟した。
康之は医者だ。瑤子と同じような症状の患者を
何十人と見ているだろう。

坦々と寝床の準備をする康之に、瑤子は言った。
「お願いだから、正志には何も言わないでね。」
「あいつ、君が具合悪いの全然気付かないんだな。」
「気付かれないようにしているの。
・・・気付かれたくないのよ。」
「どうして?」

「知ってどうするの?私、彼に看病なんか
されたくないわよ。」
「夫婦だろ?・・・大体、結婚式前から具合
悪かったんじゃないのか?」

「でも、結婚したのよ。本当のこと言おうと思ったわ。
でも、結局言えなくて。」
「隠しとおせるもんじゃないぞ。ましてや、一緒に
暮らしてるんだから。」
「わかってる。ちゃんと先のことは考えているわ。」

「医者は、何て言ってるんだ?」
「もう、半年ないって。」
「・・・そんな・・・!」
「手術しても、手遅れだろうって言われたわ。
痛いのを我慢するのが得意だったのが、
災いしたわ。」・・・

康之は、瑤子の腕をつかんだ。
「すぐ入院しろよ。いつ倒れるかわからないし、
少しでも延命できると思う。」
「医者は、みんな同じ事を言うのね。
私は、延命なんて望んでいないわ。」

「なんで?正志と一日でも長く一緒にいたくないのか?」
「ベッドの上で、醜くなった姿で長生きしてどうするの?
今日死ぬか、明日死ぬかなんてことを常に考えさせる
時間を一日でも長くしてどうするの?
そんなの、はた迷惑なだけよ。」

康之は、厳しい目で瑤子を睨んだ。
「聞き捨てならないことを言うんだな。
それは、病気と一生懸命闘っている人たちに対する
侮辱だぞ。」

「そうかもしれない。でも私の考えは変わらないわ。
どうせ直らないのに、どうせ死ぬのに、
高い医療費を払わせて、看病の苦労をさせて、
気持ちの苦労をさせて、何にもいいことがないじゃない?
無駄なことだわ。」

「どうして去っていく人間は、自分のことしか考えないんだ?
残される家族の身になってみろよ。
一日でも長生きさせたいって思うから、金も払うし、
看病もするんだ。」

「でも多くの人は疲れて、一度は思うはずよ。
”早く死んでくれたほうが楽だ”って。」
パン・・・ッ
康之の手が、思わず瑤子の頬を打っていた。

康之の後悔の息遣いの中で瑤子はよろめき、
だが、しっかり立ったまま康之を見上げた。
「私は、自尊心の塊なの。・・・それは、正志も一緒なの。
だから、正志はきっと私の行動を理解してくれると思う。」

「・・・悲しすぎるよ、そんなの。」
「ありがとう、康やっちゃん。やさしいとこ全然変わらないね。
だから、私の最期のお願いよ。正志には何も言わないで。
私が死んでも、今話したこと、言わないで。」

「・・・自信ないよ。」
「医者の守秘義務だと思って。・・・お願い。」
康之と瑤子がリビングに戻ると、正志は一人、
テレビでニュースを見ていた。

「布団の場所、すぐわかっただろう?」
「うん。あとは康っちゃんが敷いてくれた。
上手いのよ?すごく手馴れてた。」
「なんだよ、康之。家で毎日やらされてるのか?」
「当たり前だろ。俺は妻に箸より重いものは
持たせないんだ。」
「そんなわけにいかないだろ。」

正志も康之も笑って話を続けたため、瑤子は
そっと自室に戻った。
誰にも言えなかった秘密を康之に打ち明けたことで、
少し心が軽くなった気がする。
だが、秘密を口にした後に襲ってくるのは、
秘密が他所にばれないかという不安だ。
だが、信じるしかない。

優しすぎる康之が、どういう選択をするのか。
瑤子は、壁にかかったカレンダーを眺めた。
そこには、二つの丸がつけられていた。
一つは、ホスピスへの入所日。
そしてもう一つは、正志と訣別する日だった。

・・・

つづく

Author :井浦美朗( イウラミオ)
http://mypage.syosetu.com/

性別: 女性; 血液型: AB型;


A71211


歌は心の走馬灯、歌は世につれ、
 世は歌につれ、
  人生、絵模様、万華鏡…




港のカラス





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Bu

隙間産業(ニッチ市場)

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