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2017年5月17日 (水)

妄想劇場・番外編・「蜜月の逆説」

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なぜ、美人はいつもつまらない男と
  結婚するんだろう?
賢い男は美人と結婚しないからさ。・・・



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「Bitter Moon 〜蜜月の逆説〜 

ベッドタウンとして名を馳せた街の駅前に、
康之の病院はあった。
7階建ての鉄筋コンクリートの建物の中は、
清潔で明るい。
受付の女性に康之の名刺を見せると
「3番の診察室前でお待ちください。」と案内された。

10時過ぎの病院は老若男女で溢れている。
この病院が繁盛しているというより、この世には
病気が万延しているのだと思えてしまう。
瑤子の番までに、1時間以上はかかった。

やっと診察室に入ると、康之が白衣姿で待っていた。
瑤子の頬が、思わずほころんでしまった。
康之は、訝しげに眉をひそめる。
「・・・何で笑うの?」
「だって、似合わないんだもの。ううん、似合う。
似合いすぎて、おかしい・・のかな?」

「瑤ちゃんは、変わらないね。昔からすごい
笑い上戸で、授業中も止まらなかった。」
「そうだったわね。・・・そんなこともあったわ。」
椅子に座ると、康之は看護師に席を外すよう命じた。
すると、康之の目は医師という職業を負った
厳しい光を宿した。

瑤子はその目を見て、正直に言うしかないだろうと
覚悟した。
「今日来たのはね、康っちゃんに念押しをするため。
病気のこと、誰にも言わないで欲しいの。」

「・・・ご両親にも言ってないの?」
「言えないわ。・・・特に母は父親を癌で亡くしているの。
死ぬまで七転八倒の苦しみだったと言っていた。
思い出すのも辛いって。そんな母に私の看病なんて
させられないし、苦しむ姿なんて見せられない。・・・

病気でじりじりと死ぬのを待つのと、交通事故で
あっという間に死ぬのと、どちらのほうがダメージが
少ないと思う?
私は、事故を選んだの。
ショックは大きいかもしれないけれど、その分、
苦しむ日数は少ないはずよ。

死んだ日に私の死を知れば十分だわ。」
「それまで、君は孤独の中で病と闘うのか?」
「そうよ。」
「両親はともかく、夫である正志はどうするんだ?
置いてけぼりか?ホスピスに入るって言ってたけど、
どう欺いて家を出る気だ?」

「ご心配なく。ちゃんと、計画はたてているの。」
「・・・どうして正志と結婚したんだ?
こうなることがわかっていて、どうして?
君にとって、正志は一体何なんだ?」
瑤子は、悲しげに眉をひそめた。
「それは、言えない。」

「俺は、正志と10年以上の親友だぜ?
事と次第によっちゃ、許さない。」
「許さなければ、どうするの?」
「ばらす。全部、正志にばらして、それで・・・。」
瑤子は、苦笑した。「どうにもならないでしょ。
死んでく人間を脅しても、無駄だわ。」

「理由があるんだろ?瑤ちゃんが考えなしで
動くわけないもんな。一体、どうしたんだよ?・・・
正志には言わないから、話してくれないか。」
「康っちゃんは、優しいね。昔からほんと、
変わらないよね。でも誰にでも優しいのは
トラブルのもとよ。高校の頃から、そうだったでしょ?」

「ちゃんと、学習してるよ。」
「そうでなきゃ困るわ。妻子持ちなんだから、
分をわきまえないとね。」
瑤子は上着を抱えて、立ち上がった。
「じゃあ、帰るわ。」

「診察に来たんじゃないのか?」
「正志に言わないでって、念押しに来ただけ。
さすがに康っちゃんに裸見せる勇気はないな。」
「俺は医者だぜ?」
「わかってる。でも私にとっては、高校生の
康っちゃんのままなのよ。大丈夫、
ちゃんと医者にはかかってるし、薬も飲んでる。
ホスピスの予約もしたし。」

康之の目に、涙が滲んだ。
「信じられないよ。・・・どうして瑤ちゃんが、
こんなに早く・・・?」
瑤子は康之の心を沈ませたくなくて、無理に
笑ってみせた。
「人は、誰でもいつか死ぬのよ。幸い、私は
思い残すことが何もないの。

毎日、いつもこう思って生きてきた。
『次の瞬間に死んでも、悔いはない。』って。」
「それはわかるよ。瑤ちゃんは、いつも前向きで
一生懸命生きてたし、取り組んでた。
でも、正志はどうする?瑤ちゃんを失った正志は、
どうすればいいい?」

「・・・再婚すればいいわ。」
「それは、」
「妻を亡くした男を、周りは皆心配するわ。
同情するし、放っておかないでしょ。」
「正志は、そんなに薄情じゃないよ。」
本当に愛している相手になら、そうでしょうね。
そう言いたかったが、口を噤んだ。
そんなセリフを口にしたら、今まで誰にも言わずに
耐えてきたことが、すべて水の泡になってしまう。
正志への復讐が駄目になってしまう。

瑤子は、康之に背を向けた。
「正志のこと、よろしくね。・・・
それから、今までありがとう。」
「瑤ちゃん!」
もう、振り向くつもりはなかった。
自分がやっていることに、疑問なんか感じてはいけない。
立ち止まってはいけない。ただ一つの目的に
向かって、突き進むしかない。

考え込んだら、もう、生きられない。
立ち止まったら、死への恐怖で奈落に
突き落とされる。
そうだ。瑤子は、自分が何をしたかったのか、
今やっと理解した。

正志への復讐とか、恨みとか、そんなもので
自分を奮い立たせていたのは、死という現実から
逃げていたかったから。
死と向き合いたくなかったから。 
(だって、だからって、どうすればいいというの?
どうすれば、一番良かったというの?

正志に知られたくない。正志に病床に
付き添ってなんか欲しくない。
私が大好きな人たちには、一瞬の悲しみだけで
すんでもらいたい。

それには、死ぬまで何も知らなくていい。
知られたくない。同情なんかされたくない。
悲しむ顔も見たくない。そうよ、そんなもの
絶対見たくない・・・!)
走る体力もない瑤子は、ガードレールに
手をついたまま、うなだれた。

昼間の街は、息苦しい。明るくて、まぶしくて、
息が詰まる。
瑤子は、このまま足元が崩れていくような
感覚に襲われた。蟻地獄のように、
砂が吸い込まれていくようだ。

そんなに、間違っていただろうか。
そんなに、重い罪を犯しただろうか。
何がいけなかったのか。
あそこを歩く着飾ったハイヒールの女より、
そちらを歩くミニスカートの女子高生より、
道向かいのメタボリックなサラリーマンより、
自分は、そんなに駄目な人生を歩んで
きたのだろうか。

いい加減で、自堕落な時間を過ごして
しまっていただろうか。
わからない。もう、何もわからない。
・・・

つづく

Author :井浦美朗( イウラミオ)
http://mypage.syosetu.com/

性別: 女性; 血液型: AB型;


A71211


歌は心の走馬灯、歌は世につれ、
 世は歌につれ、
  人生、絵模様、万華鏡…




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