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2017年5月 1日 (月)

妄想劇場・番外編・「蜜月の逆説」

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なぜ、美人はいつもつまらない男と
  結婚するんだろう?
賢い男は美人と結婚しないからさ。・・・



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「Bitter Moon 〜蜜月の逆説〜 

都心にありながら、その喧騒を忘れさせるような施設が、
紹介されたホスピスだった。
全室個室。ホテル並みの快適な設備。完全看護でありながら、
プライバシーは守られる、理想的な場所だった。

ただ忘れてならないのは、ここから出るときはもう、
息をしていないということだ。
案内してくれたのは、瑤子と同じくらいの歳の女性所員だった。
女性は、施設の概要や費用、決まりごとなどを話しながら、
中を案内してくれる。

そんな中、患者同士が交流するラウンジのような場所を
通りかかった。「こちらで少し、休んでいらしてください。
実際に入所している方に話を聞いてみるのも良いと思います。
私は少ししたら、戻りますので。」

突然一人置いていかれ、瑤子はどうしていいかわからず、
とりあえずソファに座った。
ちょっと辺りを見回すと、若い夫婦の姿があった。
女性が車椅子に乗り、男性が後ろについている。
男性は女性に促され、背中を擦っていた。

「違う、そうじゃないってば!」
「・・・じゃあ、こう?」
「痛いってば!何度言ったらわかるのよ!」
女性がワンマンで、言いたい放題言っているように見える。
ご主人が、よく我慢していて偉いなあと思って見ていた。

すると、いつの間にか隣に座っていた年配の女性が
声をかけてきた。
「いつもはね、とても仲睦まじいご夫婦なのよ。
ただ奥さんの方が、ここ何日かずっと具合が悪いみたい。」
瑤子は軽く頷きながら、やっぱりああは
なりたくないな、と思った。

「ご主人、偉いですよね。献身的に看病なさって。」
「夫婦ですもの、当たり前・・・と言いたいけど、
昨今の夫婦はそうでもないのよね。
あのご主人は確かに立派かもしれないわ。
何せ癌だとわかった途端に、離婚届けを
つきつけられたって人もいるし。」

「本当ですか?」
「そうよ。
男の人。将来どうやって食べていけばいいんだって、
文句言われた挙句の話ですって。
他にも女の人でね、跡継ぎが産めない嫁なんて
いらないって、放り出されたなんてことも聞くわよ。」

瑤子は、自分も他人事ではないかもしれないと思った。
正志が便利な女でない瑤子をいつまでも妻にしておく
理由はないと思う。
「でも、ここに入所する費用って結構かかりますよね。
どうしてるんです?」

「残り数ヶ月の命だもの。長い間入院されるよりは
安いと思って、慰謝料がわりに払って
もらったんじゃないの?
お金を払って厄介払いできると思ってる家族も
いるらしいわ。」

瑤子は、唇を噛み締めた。
「ひどい話ですね。病気になったのは、その人の
責任じゃないことだってあるのに。
しかも余命何ヶ月って宣告されて精神的にまいって
いるのに、家族に見放されるなんて、そんな
追い討ちかけるみたいな・・・。」

女性は、遠慮がちに聞いてきた。
「あなたは、どうしてここへ?」
「・・・入所の下見です。」
「あなた自身が?」
「ええ。もう少し先になりますけど。」

「ご主人は、何て?」
「え?」
「結婚指輪。どう見ても新しそうだけど。」
瑤子は左手の薬指を擦りながら、言った。
「私、病気のこと、言ってないんです。」
「・・・え?」
「言ったら、さっきの話の人みたいに
放り出されちゃいそう。」

明るく茶化してみたが、言葉にしたら涙が滲んだ。
瑤子は立ち上がると、女性から顔を背けるようにして
軽く会釈をし、その場から離れた。

今、改めて見直すと、ここは決して健全な場ではない。
施設はシティホテル並みでも、ここにいるのは
非日常を求める人々ではない。
死と現実に向き合わねばならない病人なのだ。
その重い空気が、いつまでも瑤子の背に
のしかかって離れなかった。

ドラマによくある「余命何ヶ月」の伴侶を持つ夫婦の
美しすぎる愛情物語は、文字通り「物語」であり、幻想だ。
瑤子はノンフィクションの闘病記を何冊も読み漁った。
妻を献身的に看病する夫の姿に感動するどころか、
自分は絶対正志に看病されたくないという思いだけが
強く残った。
その決意が今再び、瑤子の胸をよぎった。

夕方マンションに戻ると、玄関には正志の革靴があった。
帰宅にはまだ早いはずだと思って正志の部屋を
覗くと、そこにはベッドに横たわる正志の姿があった。

二人の部屋は別々になっている。寝室も別。
これは二人が必要以上に自分のテリトリーに
踏み込まれることを嫌う性格が一致しての結果だ。
これは良かった。病気のことを隠し通すにはもってこいだ。

瑤子は驚いて傍らに走りよった。すると枕に
頭を埋めたまま、正志が口を開いた。
「どこに行ってたんだよ。」
「・・・。」
答えに困っていると、正志の声が更に不機嫌になった。
「いい身分だよな。亭主が働いている間、
遊んでいられるんだから。」

「・・・具合が悪いのね?」
「久々に、発作が・・・な。」
「病院へは行ったの?」
「ああ。薬をもらってきた。」
隙間風のような苦しげな息を吐きながら、正志は
うつぶせになって目を閉じた。
「食事は、できそう?」
「・・・軽いものなら。」
「じゃあ、準備するわ。」
瑤子は静かに部屋を出た。

結婚して初めての、正志の病気。わからないことが
あれば、すぐに頼るよう正志の母から言われている。
だが、初めから甘えていては駄目な嫁と思われそうだ。
そんなことを考えながら、瑤子は苦笑した。

どう思われようと、どうせ一月もたたないうちに
この家を理由も言わずに出て行く身だ。
望むのは、葬式の時に正志と正志の家族が、
「あんなにいい嫁は二人といなかった。」と泣く姿。

なんて空しい夢。なんて滑稽な未来予想。
だが、それがなければ、瑤子は立っていられない。
正志のための特別な食事を作りながら、瑤子は
訪れたホスピスのことを思い返していた。

病気のことを言ったら、放り出されちゃいそう。
そうだろうか。正志は、そんなに情のない男だろうか。
そうではない、と思いたい。
瑤子を便利な女だと思って結婚したとしても、その実、
少しは瑤子に対する情があってもいいはずだと、
信じたい。

わかっている。こんなに固執するのは、
正志が好きだから。正志の唇が、腕が、
真実の愛を証明してくれたと思ったから。

その時、瑤子は突然眩暈を感じて、フローリングの
床にくずれた。胸の奥が苦しい。
突き刺すような痛みで、思い切り呼吸ができない。
浅い呼吸に耐えながら、瑤子は症状が治まるのを
じっと待つしかなかった。

(私は、いつまでこの家にいられるのだろう?
いつまで、こうして生活できるのだろう?)
本当に倒れてしまう前に、正志の下を
去らねばならない。

気付かれたら、計画は駄目になってしまう。
知らなかったからこそ、後悔の念が深くなる。
それが狙いだ。尽くして、尽くして、突然いなくなる。
「探さないで。」という書置き一つ残して。
それが瑤子の企てなのだから。

・・・

つづく

Author :井浦美朗( イウラミオ)
http://mypage.syosetu.com/

性別: 女性; 血液型: AB型;


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歌は心の走馬灯、歌は世につれ、
 世は歌につれ、
  人生、絵模様、万華鏡…



愛の行方






P R :

Bu

隙間産業(ニッチ市場)


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