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2017年6月10日 (土)

妄想劇場・漢の韓信外伝ー斉の残党

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昨日という日は歴史、今日という日はプレゼント
 明日という日はミステリー


メジャーでは無いけど、 こんな小説あっても、
 良いかな・・・

アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい


Kansin

漢の韓信外伝ー斉の残党

田横が梁を去り、海上の島へ向かったという一報は、
すぐに櫟陽の皇帝のもとへ届けられた。このあたり、
古代だというのに漢の情報収集力はたいしたものである。
しかし情報を得た劉邦は、その情報をもとにどう
行動すべきか迷った。せっかく情報を得ながら、
行動を起こせずにいたのである。

消し去ってしまいたい。

劉邦がそう思うのには、わけがあった。
かつて斉を韓信に攻略させておきながら、酈食其を
講和の使者として派遣したことは、彼の見通しの甘さを
露見させた。
劉邦はそれを恥じ、生き残った田横を滅ぼしたい、と
思ったのである。田氏をすべて滅ぼし、最初から何も
なかったことにしたかったのだった。

このとき傍らに控えた相国の蕭何は努めて冷静に
劉邦に進言した。
「田横の行動は、いわば消極的不服従というものでしょう。
陛下の統治は受け入れがたいが、あえてそれに武力で
対抗しようという意思はない……そう見えます。

個人的に面識もなければ禍根もないのですから、
そっとしておいてやるのが上策かと」蕭何らしい
意見であった。

しかしこのとき劉邦は珍しく蕭何に向かって怒気を
あらわにしたという。
「禍根がないだと……そんなことはない!酈生を殺された!」
だが、蕭何は動じなかった。

「お怒りですな。しかしですな、陛下……田横としては、
あの場合酈生を殺さずにはいられなかったでしょう。
酈生の言葉を信じて行動したのに、ひょっこり
韓信が現れ、国を奪われたのですから。
したがって田横に行動の誤りはありませぬ。
……陛下の方にそれがあります」

劉邦はこの言葉を聞き、極めて不機嫌さをあらわしたような
仏頂面をしてみせた。
「蕭何……お前、わしのせいだと言うのか。
そうやって直言してくれるのはいいが、わしがいつもそれを
喜ぶと思ってくれては困る」

「お許しを。しかし、言わねばなりません。
あのとき酈生を失った悲しみは陛下だけのものでは
ありませんでした。
楚王韓信は当時、迷いながら斉に攻め込みましたが、
自分の行為の結果に立ち直れないほどの衝撃を受けたと
いいます。彼の気持ちも考えてやるべきでしょう」

劉邦はしかし、こんなことを言われても素直に反省する
男ではない。
「だったら奴は徹底的に討てばよかったのだ。
田横を討ち漏らすなど……奴らしくもない」

「仕方がありませぬ。田横は彭越のもとに
逃げ込んだのですから韓信としてはどうしようも
なかったでしょう」
「なら彭越が悪い。どうして奴は匿ったりしてわしの意に
反することをしたのだ」

「彭越は、あの時点では陛下の臣下ではありませんでした。
彼は中立的な存在でしたので、田横を匿うことで漢に
対抗できる勢力を培おうとしたのでしょう」

「韓信にも彭越にも罪はない、としたらやはりわしに罪が
あるということになるのか」
「陛下のお立場、そして決断にはそれほどの
重みがあるのです。これを機に深く自覚なされた方が
よいと存じます」

自分の立場が軽いことをいいことに、よく言いおるわい。
劉邦は内心でそう思ったが、若干それが態度に
出たようだった。そばにいた蕭何の耳には彼の口から
発せられた「けっ」という音が確かに聞こえたのである。

しかし、蕭何はあえてそれを無視し、
「田横を討つおつもりですか」と聞いた。

「どうせ討つな、というのだろう。しかし、奴の背後には
斉の賢者たちが控えているのだ。情報では今のところ
五百名しかいないとのことだが、それらが核になって
ひとつの勢力になったとしたら、どうする? 
島にこもったからといって座視しているわけにはいかん」

これは確かに劉邦の言う通りであった。
さらには田横の行動を黙認することで次々に同様の行動を
起こす者が現れても困る。

消極的不服従者が数多く現れ、それらがひとつに
まとまったりしたら、それは立派な叛乱勢力に
なってしまうからだ。

その時、消極者たちは積極者に転じるに違いない。
「ならば、懐柔したらいいでしょう。その島の王にでも
封じたらいかがですか」

「王だと! ふざけたことを言うな。
いや、わしは討ちたいのだ。
酈生の仇を討ちたいのだ」
「またそれをおっしゃる……本心なのですか、
それは? 

おそれながら陛下より酈生の仇を討ちたいと
願っている人物を私は知っています。
その者を呼んで、意見を聞いてみるがいいでしょう」

このとき劉邦は、自分の思いで頭が一杯で、
他者のことに思い至らなかったようである。
蕭何の口から自分より田横を恨んでいる者が
いると聞いても、それを想像することが
できなかったらしい。

「誰のことだ、それは? 韓信のことか」
「いえ、まあ彼もその一人かもしれませんが……
違います。お忘れですか? 
衛尉(近衛隊長)にあたる人物です」
「ふむ。そうか……そうだったな。奴ならわしよりも
田横を恨んでいるかもしれん」 劉邦は得心した。

その後、劉邦と蕭何は衛尉と会見するに至った。
その場に現れた男の名は酈商といった。
高陽の生まれで、陳勝が兵を挙げてから半年後に
劉邦の配下になった男である。
劉邦にとって極めて早い時期から付き合いのある
男であった。

彼は田横に煮殺された酈食其の弟であった。
酈商は兄の食其とは違い、学問に興味をもつことは
なかった。
兄が世間からつまはじきされるような人物であったため、
若い頃の彼はそのとばっちりを受けて苦労することも
多かったようである。

兄は「狂生」と呼ばれたのに対し、彼も「狂生の弟」と
呼ばれ、ともに蔑まれた。
まったく一族の中に変人がいるということは迷惑なことで、
自然、酈商は兄を恨むようになった。
まだ若かりし頃の酈商は、よく兄に詰め寄ったものである。

「今日も路地裏で殴られたぞ、兄上! 
彼らが兄上の学問を理解できないからといって
やみくもに罵倒したり、殴ったりすることはやめてください。
私は、その仕返しを受けねばならないのです」

酈商の切なる訴えはたびたび続いたが、食其の
答えはいつも決まっていた。
「大いなる目的のためには、小さな屈辱や痛みには
耐えねばならぬ」その答えを聞くたびに
酈商は激怒した。

「耐えているのは兄上ではありません。私なのです! 
いったい兄上の言う、大いなる目的とは何なのですか!」
酈食其はいつもその問いかけを黙殺したが、
たった一度だけ、それに答えたことがある。

「善悪の峻別だ」
しかし酈商にはその答えの意味がよくわからなかった。

悪は兄上、あなただろう。
酈商はそう思ったが、このときの酈食其の言葉は
不思議と彼の中で重みを持った。
そして以後は屈辱を受けても兄にそれを
言いつけることをしなくなったという。

そして酈商は劉邦の軍に参じて現在に至っている。
学問を志した兄とは違い、彼は純粋な武官として
数々の戦いを経験し、相応の地位を築いた。が、
善悪の峻別という兄の言葉の意味は未だ
解明できずにいる。

「私に言えることは、兄は兄らしく死んだ……
本望だったろう、ということだけです」
酈商は召し出された場でそう自分の考えを述べた。

「お前は、ことの仔細を知っていて、そう
言っているのか?」劉邦は聞いた。
あるいは自分に対する遠慮が彼にそう
言わせたのではないか、と勘ぐっているのである。

「知っております。陛下が兄に使者としての任務を
与えながら、楚王韓信に攻撃命令を出していたこと……
楚王は兄が使者として臨淄に滞在していることを知って
攻撃をためらったが、配下の弁士・蒯通の言を用い、
結局攻撃したこと……

一連の出来事はすべて聞き及んでおります」

「では、お前は兄の死に関して誰をも恨んでいない、
そういうことか? そう捉えてよいのだな?」
聞かれた酈商は、少し悩んだ表情を浮かべたが、
やがて心の中のおぼろげな思いを押し出すように、
言葉を継いだ。

「誰かを恨んだところで……兄が帰ってくるはずが
ありません。
生前の兄は……学問を追究するあまり……
とらえどころのない人物でした。
弟の私が言うのですから、それは間違いありません。……

兄は、死ぬ運命を承知で臨淄に向かった。
そして望みどおり死んだ……
兄の意思がどういうものか私には未だにわかりませんが、
兄には兄の望む死に方があったのだと思います」

劉邦はこれを聞き、あからさまに安堵したような
顔をした。
威厳がないようにも見えるが、これは少なからず
酈食其の死に責任を感じていた彼の気持ちを
よくあらわしていたと言える。

「では、わしの指令に間違いはなかった、と?」
「私に陛下の詔を評価する権限はありませぬ。また、
たとえあったとしても……陛下のご判断に間違いは
なかったと思います」

酈商の態度はまったく不自然さがなく、それによって
劉邦も蕭何も、この言葉を信じた。

しかし彼らの質問はまだ続く。蕭何がその口火を切った。
「実際に君の兄を煮殺した斉の王室に対しては……
とりわけ一族の最有力者であった田横については
どう思う?」

やや酈商の表情は固まった。そして額には汗が浮かぶ。
「田横……楚王韓信が討ち漏らした男、ですな!」
酈商の眼光の鋭さが増したように、二人には見えた。

落ち着いて兄の死を受け止めているように見えた
彼にとって、唯一虚心でいられない相手が田横、
ということになるのであろうか。

「田横を恨んでいるか? 憎いか?」蕭何の問いに
酈商は目を閉じた。自ら眼光の鋭さを消し、
それによって次第に心が落ち着いていく様が
傍目にもわかるようであった。

やがて彼は答えて言った。
「憎くないか、と言われれば憎い。ですが憎いかと
問われれば、そうでもありません、とお答えしましょう。

今、陛下が私に田横を討てと命令されれば、
私は無心でその命令を実行します。しかし、命令が
下されなければ……なにもしません」

劉邦と蕭何はこれによって田横を懐柔しようと決めた。
兄を殺され、誰よりも田横を恨んでいるはずの酈商が
「討つことに乗り気でない」と言っているのである。

情を優先させたような形ではあるが、必要以上に
争いごとを起こす余裕は、政情が未だ不安定な
この時期の漢にはない。

しかも酈商が「指令に間違いはなかった」と
言っている以上、劉邦としては無理に田横を討つ
理由がなくなった。
胸のつかえがとれた劉邦は、海上の島にいるとされる
田横に対して使者を送り、罪を許すと宣言した。

そして一度上洛して顔を見せよ、と指令を出すに至る。
しかしそれを聞いた田横の胸中は複雑なものだった。

・・・

つづく


愚人は過去を、賢人は現在を、
  狂人は未来を語る




Photo_2



「大連の街から」





P R :

Bu

隙間産業(ニッチ市場)

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