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2017年6月18日 (日)

妄想劇場・漢の韓信外伝ー斉の残党

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昨日という日は歴史、今日という日はプレゼント
 明日という日はミステリー


メジャーでは無いけど、 こんな小説あっても、
 良いかな・・・

アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい


Kansin

漢の韓信外伝ー斉の残党

田横がたどり着いた島は、即墨の東の海上にある。
島にはある程度の住民がいたが、田横は意に

介さなかった。
住民の多くは、斉地を本拠に活動する漁師の
家族であり、その中には大陸と島の間を行き来して
生活する者もいた。

つまり田横の顔は、この島では利く。

住民たちは「田氏の王さまがこの島にやってきた」と
騒ぎ、揃って貢ぎ物を差し出したりした。しかし、
その貢ぎ物の中身が揃ってどれも魚であったことは、
田横を落胆させた。

当面三食どれもが魚、という生活が続きそうだ。

並み居る豪傑たちと覇権を争い、人を人とも
思わぬような人生を送ってきた自分が行き着いた
場所…それが三食魚づくしの島だった、ということに
思い至ると、彼としては苦笑いするしかない。

これが天罰だとすると、軽いものではないか。
そう考えると、苦笑いが本気の笑いに変わる。
なんと滑稽な顛末。一種の喜劇ではないか、
とも思えてくる。

しかしこのまま終われば、総じてわしの人生は
幸福なものだったといえるかもしれない。
だが、このまま終わるはずがないとも思う。
あるいは自分はこの島を足がかりにして、もっともっと
東の海上へ逃れなければならないのではないかと。

そして大陸に住む者の誰もが知らない土地へ
たどり着き、そこで自給自足の生活を営むしか
生き残る術はないのではないか、と思うのであった。

もちろんそんなことは出来るはずがない。
仮に見知らぬ土地にたどり着いたとしても、
名族に生まれた自分が畑の土をあさり、素潜りして
魚を採って生活するなど、出来ようはずもなかった。

気位の面もあるが、それ以前に技術的な問題がある。
彼は泳ぎの練習などしたこともなかったし、
作物は育てるものではなく、人に命じれば勝手に
育つものだと思っていた。

この段階に至り、ようやく彼は庶民の逞しさと、
自分の人生の浅はかさを後悔したのであった。
にもかかわらず、つき従う五百名の部下たちは
自分にとてもよくしてくれる。

もう自分には彼らに与える土地も、金もないというのに。
名目的な爵位さえも与えることができない。
それは自分があえて王侯を称さなかったからであった。

普通の人間として、生きたい。
田横はそれを強く願った。そして心の片隅で、
自分にはそんな小さな願いを持つことすら
許されないのではないか、と思っていた。

やがてその思いは皇帝の使者を迎え入れることで、
現実味を帯びていく。
田横としては、なぜ放っておいてくれないのか、
という思いを使者にぶつけるしかなかった。

「私はかつて…陛下の使者の酈食其を
煮殺してしまった。
聞くところによると、酈食其には弟がおり、
漢の将軍となっているそうじゃないか。しかも、
なかなか有能な男だと聞く……。

彼は私を恨んでいるだろう。それを思うと、
とても恐ろしくて上洛などできぬ。勇気がないのだ。
笑ってくれてもいい」
使者は笑わずに答えた。

「陛下は貴殿の罪を許す、とおっしゃっています。
陛下が許すのですから配下の将軍に過ぎない
酈生の弟がそれに逆らうことは出来ません。
どうかご安心なされよ」

田横は歯がみしながら、それに返答する。
「許される、ということであれば…どうかもう
私のことは忘れていただきたい。平民として、
海中の島にとどまらせていただくことを
お許し願いたいのだ。…
…そうお伝えしてくれ」
使者との会見は物別れに終わった。

使者との会話の中で、あらためて気付かされた
ことがある。
自分は、いつの間にか命を惜しむようになった。
不思議なものだ。戦いのさなかにいる時は、
より死ぬ確率が高いというのに、それを気にしたことは
なかった。なにが私をこのような腑抜けにしたのか……。

田横の頭の中には、いま二人の兄の姿がある。
田儋と田栄。ともに乱戦の中で戦死した彼らは、
田横にとって自らの生き方の指標となる人物たちであった。
しかし皇帝に向かって「放っておいてくれ」とでもいうような
返答をした自分の姿はとても情けなく、結果的に
二人の兄の顔をも汚したような気分になる。

今さらなんだ! どうせ……我らが支配した斉は滅んだ。
私が彼らの真似をしたとしても、国は再興しない。
ただの……死に損だ! 無駄死にだ!
そう自分に言い聞かせ、気の迷いをごまかそうとした。

島の端の断崖から海を眺め、思いを馳せる。
あのときの酈食其の言葉。
「指揮官は韓信だ! 
彼に比べればお前らなど…犬に過ぎぬ!」
「犬は犬らしく振るまえ。腹を見せて、降参するのだ」

やはり自分は犬に過ぎなかった。怒りに任せて
酈食其を殺したものの、迫り来る韓信に恐れをなして
逃げ回ったあげく、皇帝相手に見逃してほしいなどと
哀訴するとは……。

武力も持たぬ弁士を殺し、自分より強い相手には
腹を見せる……まぎれもなく私は犬だ。
長兄の田儋は、秦の章邯率いる当代最強の軍に
雄々しく立ち向かった。
次兄の田栄は、項羽を相手にしても決して
卑屈にならず、たびたび剣を交えた。それに比べて
自分は……。

田横は幾日も思い悩んだが、この先どうすべきかと
考えても答えは見つからなかった。
そうしているうちにまるで催促するかのように
漢の使者が再び彼のもとに現れたのである。

「衛尉酈商には、貴殿が現れても決して騒動を
起こさぬよう言い渡した。
関中まで来いとは言わぬ。雒陽まで来て、顔を見せよ。
招きに応ずれば、再び王侯を称する身分に戻れる。
しかし、応じなければ貴殿は滅ぼされよう」

その言葉を真に受けて王侯に戻れるとは思わなかった。
それよりも自分が応じないことで、島の五百名の
部下たちに危害が加えられることを恐れた。
そのように感じてしまうあたり、田横は二人の兄と
本質的に違ったのかもしれない。

結局彼は二人だけの食客を連れて海を渡り、
大陸へ上陸した。

使者は通常随員を連れているものだが、このときの
使者は一人だけだった。軽く見られたような気が
しないでもないが、田横としては人数が少ない方が
気楽であった。

これが二十名を越すほどの随員を伴った使者
だったとしたら、彼にとって雒陽までの道中は
刑吏に引きずり回される囚人がたどるものの
ようだったに違いない。

彼らは雒陽までの道のりを駅ごとに馬車を
乗り換えて、共にした。馬車に乗っている間は、
することがあまりない。必然的に使者との
会話が増えた。

使者は自らを「王鄭」と名乗り、気軽に田横に
話しかけた。しかし、その割にはこの王鄭なる
人物は自分のことを話すことを、あまりしない。

そのことに気付いた田横は、やや不安になる。
それも無理のない話で、彼がこれから連れて
行かれる場所は、いわば敵地であった。
使者がなんらかの理由で自分を欺いて
いるのかもしれないと疑いたくなる気持ちも、
自然なものであった。

「君、いや、王鄭どのは、どこのお生まれか」
相手に出身地を問うことは、この当時では
素性を知りたいという意思表示のひとつである。
田横のこのときの質問もそれに違いなかった。

「臨湘です。それが何か?」
臨湘とは洞庭湖の南のほとりにある城市である。
春秋時代の楚の領地でかなりの奥地であった。
臨湘…長沙人か。漢の勢力はすでにそこまで
広がっているということか……。

田横は内心驚いたが、相手に対してはそれを
悟られぬよう、素っ気なく言った。
「聞いてみたまでだ」
だが王鄭というその人物は田横の顔を
いたずらっぽい目で眺め、「ははぁ、わかりましたぞ。
疑っておいでなのですな?」と言った。

「そんなことはない」
「臨湘はいいところですよ。夏には洞庭湖で遊び、
秋には遠くに見える山々が真っ赤に紅葉する。
冬は殺風景で私にはつまらなく見えるのですが、
それはそれで味わいがある、という人もいます」

王鄭の口調は屈託のないものだった。緊張している
田横には、それが逆に癇に障る。
「君の出身地に興味があるわけではない。聞いてみた
だけだと言ったではないか」

仮に疑っているとしても出身地を偽っていることを
疑っているのではないのだ、田横はそう言いかけたが
なんとかその言葉を飲み込んだ。

「そうでしたか。これはとんだお喋りを…
…申し訳ござらぬ」
王鄭はそう言って微笑んだ。
そうして見ると不思議に長者らしい風格も漂うように
感じられる。

田横は王鄭が使者として下手したてに態度を
構えていることから、疑いなく相手が年下だと
ふんでいたのだが、もしかしたら自分より
年上なのかもしれなかった。

その辺も聞いてみたいと思った。
いや、根掘り葉掘り聞くのはよそう。

・・・

つづく



愚人は過去を、賢人は現在を、
  狂人は未来を語る





Photo_2



「別れの街」





P R :

Bu

隙間産業(ニッチ市場)

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