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2017年6月15日 (木)

妄想劇場・特別編 (されど愛しきお妻様)

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昨日という日は歴史、今日という日はプレゼント
明日という日はミステリ

過去に起きていることから浮かび上がってくる
真実もある。・・・


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※ 高次脳=脳神経細胞が壊死することで起きる
精神神経的な障害で、
見てわかる身体のマヒなどとは違い人の内面の
精神活動や認知行動に起きる障害。
行動や感情がコントロールできなくなったり、
記憶障害や注意障害、遂行機能障害、
失語などがある


大病後も人生は続く

15時16分、お妻様起床
      
フリーランスの執筆業なので、自宅2階の寝室隣が、
職場という名の仕事部屋。
特に打ち合わせや取材などで外出予定がなければ、
朝7時の起床後に1階茶の間に降りて軽く掃除だけやって、
すぐに仕事部屋にこもる。
      
誰に管理されているわけでもないが、1日の理想の
スケジュールは、軽食をとりつつも15時ぐらいまで
集中して、1日のタスクの大半をこなしてしまい、
残りの時間は休息タイムと若干の推敲作業に
あてるというもの。
      
何日かぶりに、そんな理想モードで仕事が終わった
年の瀬のある日、15時16分。午後の陽射しと
淹れ立て珈琲の香りも快適な1階茶の間に、
奴らがやってきた。
      
      ダバダバ、ニャー、ドスドス、ニャッパー。
階段を駆け下りて茶の間に駆け込んでくる、
合計23キログラム、5匹の猫。そして、
猫に遅れること数秒で、
「はよーざまー」(おはようございます)と
気の抜けた声で入って来るのは、奴らの主。
      
頭ボサボサで半分目が開いていないパジャマ姿の
我が「お妻様」、おん歳38歳である。
様がついているのは、ヤツは怒らせると怖いというか、
むやみにしつこいからである。
      
全然おはような時間じゃないが、お妻様は
宵っ張り体質でたいがい朝方まで起きていて、
この時間まで猫5匹と寝室で絡まりあっているのが
平常運転。パジャマ姿なのも平常モードで、
お妻様は基本的に外出予定がなければ1日中
寝間着のままだ。

ていうか貴様、なぜ今日「も」靴下片っ方しか
はいてないのだ。
面白いので観察しよう。
      
まず3桁まで血圧が上がることがない超低血圧の
お妻様は、ここからの起動に時間がかかる。
大昔のメモリが足りない安物パソコンみたいに、
なかなか起動しない。
      
窓辺に歩み寄り、陽射しを仰いで「溶ける〜」と
呟きながら庭のポストを確認しに行き、
戻ってくると猫5匹に絡みつかれながら
猫水の入れ替えと、5匹分の猫飯を皿に計量。
見ればその目は未だまともに開いていない。
      
もつれる足でトイレに行く道すがら、
「こんにちは〜」誰と話してるの!? と振り返れば、
天井を見上げて「君はここで越冬するつもりかい?」
視線を追えばクモさんである。
      
お妻様はクモを見ても、キャーともギャーとも
言わない。
家の中にクモがいるのは我が家が農村の
緑に囲まれたボロい中古住宅だからではなく、
お妻様がクモさん大好きだからである。
      
この家に越して来る前のアパートでは色とりどりの
ハエトリグモに「もっくん1号」「もっくん2号」などと
名前を付けて、荷物と一緒に引越してきたぐらいだから、
天井の角や鴨居にクモが張った巣を
僕が掃除すると「なにしてくれとんじゃー!」と
お妻様はめっちゃ怒る。
      
そのため我が家の端々には彼らが自由自在に
巣を張り、ただでさえ古い家が少しホラー風味だ。
時折、子どもの手の平ぐらいあるアシダカグモが
猫どもと大バトルを繰り広げていたりもするから、
虫が苦手な方には冗談抜きのホラーハウスである。
      
「ガッツ石松♪ ガッツ石松♪ 」
やれやれ。トイレに入ったっきり出て来ないのは、
多分トイレの中に積んである
『発光する深海生物図鑑』だとか
『日本の猛毒を持つ生物図鑑』だか
謎の蔵書を読んでいるのだろう。

ようやくトイレから出てくると、紙パックのココアを
冷蔵庫から出してひとくち。
僕の坐る茶の間テーブルの隣に坐ると、
ぼんやりしながらゆらゆら揺れている。
どうやらまだまだ脳は起動準備中らしい。
      
ちなみにお妻様の毎日の朝ご飯は、バナナと牛乳と
豆乳をミキサーで混ぜた特製バナナジュース。
ご自分でお作りになることになっている。
      
目を閉じて船をこいでいるので「バナジュー飲みなよ」と
話しかけると、僕の声に反応してニャーと寄ってきて
立ち上がる猫と手を合わせて「ハイタッチニャー」。
え、猫とハイタッチして、俺の言葉は無視っすか!?
      
その後も観察を続けた結果のお妻様の行動は
こんなである。
前日に僕が飲んだ安物ワインの瓶にじっと見入る。
瓶を置いて、そのままテーブルに突っ伏し、
ガバッと起き上がって深いため息一発。
      
起床から16分、再び天井を見上げて「あのもっ君
(クモ)はどうするべき? 
戸棚の中に入ってくれればいいんだけど」
(床に降りてきて猫に惨殺されるのを
心配しているらしい)。
      
再びワインの瓶を手にとり、「子鹿?」
(瓶に描かれた『プードゥ』(小鹿)のシルエットが
気になっていたらしい)。
      
最も太った猫を膝に抱えあげ、フヨフヨの猫腹に
額を埋めていると思いきや、唐突に「ガッツ石松♪ 
ガッツ石松♪ ね〜ガッツ石松だよね〜」と
猫と会話。意味が分からん。
      
「なにそれ?」と聞けば、「あれガッツ石松じゃん?」
答えになっていない!「だから何それ?」
「いまお外でトラックの人がバックしてて、バックします、
バックしますって警告音がガッツ石松なんだよ
(って聞こえるんだよ)」
      
へえーそうですか。僕は君に早くバナナジュース
飲んで欲しいんだけどな〜〜。イライラ。
      
ちなみに超省エネな体質のお妻様は、朝(?)の
バナナジュースを飲むと、その次に食物が
食べれるようになるのは4〜5時間後。
無理に食べると逆流性食道炎を起こすという
持病もある。

我が家では炊事は僕の担当なので、お妻様の
朝バナナが遅れれば遅れるほど、僕が1日の
家事を終えて休める時間が遅くなる。
      
そして起床24分後、ようやく立ち上がったと思いきや、
ブラシを取り出してボッサボサの髪をとかし出すお妻様。
「あー、お風呂入らなきゃ…」って確かに君、
そのツヤッツヤのキューティクル(脂)、いつから
風呂入ってねーんだこのヤロー。
      
再び猫がニャー。「お前ごはんなの?」
どうやらさっきのターンで餌を食べなかった猫が
食事らしく、座り込んで餌を食べる猫の背中に
ある小さな円形脱毛をチェック。

俺はね、猫じゃなくね、貴様が飯を食うのをね、
一生懸命待っているんだけどね……。
猫のご飯が終わるのを見届けると、居間の座椅子に移り、
タブレットでメールチェックを開始。
なし崩し的にSNSチェックなど始めてしまっているらしい。
      

「で、お妻様は何をしているのかな?」
「Facebookとかメールとか見てるよ」
「それはバナジューのあとじゃ駄目なのかなあ?」
「ごめん」 
でも、動かないお妻様。あー、イライラ。
      
「働いたら負けでごじゃる」
そんなこんなで結局、お妻様のOSがまともに起動し、
キッチンに立ってバナナの皮をむき出したのは、
起床41分後! 

本当に君を見ているとwindows95時代の
パソコンとか思い出しますよ。
絶対インテル入ってない。
      
しかもバナナの実についている筋的なものが
気になるお妻様はバナナの皮をむいて小さく切るだけの
作業にみっちり5分をかけ、ついでにまな板を倒して
「ごめんごめん」となぜかまな板に謝罪。
      
やっとミキサーにバナナと牛乳と豆乳を入れ、
スイッチオン! したと思ったら、今度は自分の服に
ついた糸のほつれが気になったらしく、作業中断。
ハサミを出して糸をカットするも、切った糸は
ゴミ箱じゃなくコンロの方にポイ。
ハサミは出しっ放しで、ミキサー再開……。
      
ようやくできたバナナジュースを手に取ったお妻様は、
茶の間のテレビ前に落ち着くのであったが、
ツッコミどころはさらに加速する。
      
ニュース専門チャンネルを見ながら唐突に
「ねーこのお父さん熟女好きなのかな?」
46歳の女性の息子が母親の再婚相手の男性
(24歳)をハサミで刺したという報道の感想らしい。

僕に話しかけているのか猫に話しているのか
わからないし、いずれにせよ下らないので
無視していると、
「ねえねえねえ、熟女好きだったのかなあ?」
知るか!!

そう言えばお妻様、あなたさっきコンロの方に
糸ゴミポイ捨てして、ハサミも出したままですけど? 
指摘すると、「ふんどしふんどし イチゴパンティ」
ってお妻様、それは何かの言い訳の
言葉なのでしょうか?

(漫画『ワンピース』からの引用らしい)
いいから早く、その、一口飲んだだけで座卓に
置きっぱなしバナナジュースを! 
再び手に取りやがれ!

結局こうしてお妻様がバナナジュースの朝食を
終えたのは、起床から1時間14分後なのであった。
ハアハア……。
      
「さてお妻様、クイズです。今日、君が起きてから
何分ぐらい経ったでしょうか?」
「えー、30分ぐらい?」
その2倍半ですよコノヤロー。
      
賢明な読者の皆さんはお気づきでしょう。
お妻様は、いわゆる大人の発達障害さんである。
注意障害が激しく、ひとつの作業をしていても、
目に入った他のものに注意をそがれると、
本来やっていた作業を遂行することがまずできない。
      
テレビを見ながら食事などしていると、
1時間以上かけて「おかず1品のみ」ということもある。
遅いのはほかのことに気を取られてしまうから。

1品のみなのは、他の皿の存在に「気付かない」からだが、
別にうちの食卓は貴族のテーブルみたいに
端っこから端っこまで何メートルもあるわけじゃない。
      
逆にスイッチが入って何かに集中すると
時間の感覚を喪失するようで、1000ピースもある
糞面倒くさそうなジグソーパズルを半日で
仕上げたりもする。

このスイッチがだいたい夜中に入るものだから、
寝るのはたいがい夜明け間近ということに……。
自発的に行う家事と言えば、猫の世話のみ。
      
入れてやらなければ風呂にも入らない
(体臭がほぼゼロなのでそれでもスッキリした
顔をしているのがまた腹立つ)、
食べさせないと野菜絶対食べない、

こちらが無視していてもひたすら何か
(猫とかクモとかカマキリとか金魚とか
窓にひっついたヤモリとか)と話しているし、
連れ出さなければ一歩も自宅を出ないし、

率先して家事はやらないくせに10年来
無職の無収入で、平然と
「働いたら負けでごじゃる」とか言いやがる

「ようやくあたしの気持ちが分かったか 」
      
「鈴木サン大変ですねえ」
周囲からそんな苦笑混じりの同情を
投げかけられつつ、同棲5年の結婚13年半。
おつきあい開始のときは19歳だったお妻様は、
今や立派なアラフォー無職である。
ああ、大変でしたとも。絶対あんたらが思ってるより
激大変だった! 
      
お願いしても働いてくれないし、不安定なフリーの
記者業でシングルインカムは辛かった。
18年のうち、大半の時期は炊事も洗濯も掃除も、
僕独りで背負い込んで来た。
      
けれども、実はこの1年ほど前から、お妻様は
劇的に変化した。それなりに家事を完璧にこなし、
以前は散らかり放題だった我が家は快適に
維持されて、僕の担当する家事や家事にかける
時間も劇的に減少した。
      
一体我が家になにが起こったのか!?
      
別にお妻様の発達障害が直っちゃった
ワケじゃないのは、上記観察録を見ての通り。
劇的に変わったのはお妻様ではなく、僕の方だ。
      
2015年5月、僕は脳梗塞を発症し、
軽度の高次脳機能障害を抱えることとなった。
      
脳梗塞=脳の血管が詰まって脳細胞が
お亡くなりになってしまうこと。
高次脳機能障害=脳細胞がお亡くなりになったことで、
認知機能や情緒コントロールなどに障害が起きること。
      
だが実はこの高次脳機能障害とは、
「後天的発達障害」と言い換えても良いほどに、
その当事者感覚や抱える不自由感が一致している。
もちろん脳の先天的障害である発達障害と違い、
高次脳機能障害はリハビリや時間経過で
回復していくという違いはある。
      
僕自身の高次脳機能障害もほぼ2年をかけて
大幅に改善したが、ここがポイント。
僕自身が高次脳機能障害を抱えたことは、つまり僕が
一時的とはいえ、お妻様と同じ不自由感を味わった
ということだ。
      
「ようやくあたしの気持ちが分かったか」。
そうお妻様は僕に言い、障害を持つ者の先輩として、
僕の障害の受容やリハビリを全面的に支え続けてくれた。
その一方で僕は、後悔の念に苛まれまくることになった。
      
「なんで〇〇できないの?」
険しい口調で、いったい何百回、何千回、
僕はお妻様のことをなじり続けてきたことだろうか。
      
語弊を恐れず言うならば、障害とは、機能が
欠損しているということ。僕がお妻様に言い続けてきた
叱責の言葉は、片足を失ってしまった人に
「なんで両足で歩かないの? 

遅いから両足で歩けよ」と言い続けてきたような
ものだったのだ。なんという残酷なことを、
無意識にやってきてしまったのだろう。
      
なんでって言われても、できないものはできないのだ。
みずからが高次脳機能障害になったことで、
ようやくそのことに気づけた。
      
そして、改めてお妻様がなにができないのか、
「何だったらできるのか」を深く考えた結果、
僕はそれまで15年以上僕を苦しめてきた
「仕事も家の中のことも全部僕が背負う」という
重荷から解放され、お妻様に小言を言うことはなくなり、
お妻様は家事の大半を担うようになった。

現在では1日の家事にかける時間と労力は、
お妻様の方が多いぐらいだと思う。  
嗚呼、本気で思う。
こんなにもお妻様が動いてくれるなんて、夢のようで、
信じられない。
色々辛かったけど、脳梗塞になってよかった。
      
同時に思うのは、これまでの記者活動の中で
会ってきた人々のこと。そこには、様々な障害を持つ
パートナーに苦しんでいる人や、障害を抱えていることが
原因で陰惨なDVの被害者となってしまった
女性などが数多くいた。
      
確かに発達障害を抱えた大人は、加害的な面と
被害者になり易い側面を併せ持つ。
けれども彼ら彼女らは、他に得難いユニークな
パーソナリティの持ち主だし、ちょっとした
コツさえつかめば、家族も含めてその障害と共存して
平和に家庭を運営していくことは、十分に可能なのだ。
      
「ちょっとしたコツ」だって、我ながらよく言うわ。
実際に僕がそれを獲得するには15年以上の
同居生活と自身の脳梗塞経験まで必要になったが、
きっとその経緯は世の中のアンハッピーな
発達障害さんたちとそのパートナーさんたちに、
ちょっとは役立つ情報かもしれない。
      
世の中のギリギリなカップルや夫婦たちへ、
お妻様の辛さを分かってあげられずに叱責し続けた
僕自身の人生の懺悔も込めて、僕ら2人の記録を
掘り起こそう。
      
「お妻様、そういうことで連載にしますけど、
いいですよね?」
そう聞くと、キラキラした笑顔で人差し指と親指で
丸を作ってOKサインのお妻様。
「OKなのね。ありがとう」
      
「そうじゃなくて、マニー(money)」お金!!
貴様そこでギャラの要求ですか!?  
コノヤロー分配率は相談させてください。・・・

次回へ続く



87285155_o191


こうして、こうすりゃ、こうなるものと、
  知りつつ、 こうして、こうなった



A111


歌は心の走馬灯、歌は世につれ、
 世は歌につれ、
  人生、絵模様、万華鏡…



「信じています」




P R :

Bu

隙間産業(ニッチ市場)
 


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