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2017年7月 9日 (日)

妄想劇場・韓信外伝 (馬邑失陥)

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昨日という日は歴史、今日という日はプレゼント
 明日という日はミステリー


メジャーでは無いけど、 こんな小説あっても、
 良いかな・・・

アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい


Kansin


韓信外伝 (馬邑失陥)

都合の悪いことは忘れ去るという得意技を持っていた
彼にしても、あのときの光景は今でも目に
焼き付いている。
滎陽を囲んだ無数の兵の先頭に立つ項羽の姿。
城中の食も尽き、彼らは進退極まった。

――いよいよだな。
遅かれ早かれ、滎陽は落城する。彼らの使命は、
それを出来うる限り引き延ばすことであった。
しかし当然のことながら、落城後に彼らが辿る
運命には、保証がなされていない。

「銘々に城を脱出し、落ち延びよ。これまで
ご苦労であった」
滎陽の守将は城中に残った兵卒たちに向かって、
そう言った。そして、守将は彼にも言い渡す。
「あなた様もお逃げください」

その瞬間、不覚にも彼は安堵した。しかしほぼ同時に
そんな自分に嫌気がさす。
「いや、ともに吾も戦おう。ここで逃げ出したとして、
捕われれば虜囚の辱めを受けることとなる。
それよりはいっそ奮戦して雄々しく命を
散らした方がましだ」

彼はそう言ったが、守将は首を縦に振らなかった。
「いけません。あなた様が乱戦で命を
散らしてしまっては、王家の血が絶えてしまいます。
これは……とてつもない損失だ。
二百年以上にもわたる王家の血筋を私の決断で
絶やすことはできない。
私にはそんな権限はないのです」

「吾が、それで構わないと言っているのだ」
彼はそう答えたが、結局守将はそれを
受け入れなかった。
彼我の兵力の差を考えると、事実上、脱出しても
逃げ切ることは不可能であった。
これはつまり脱出は同時に捕虜になることを意味する。
しかし守将はあえてそうしろ、と言っているのであった。

「生き延びてください。その後、楚に味方するか
漢に味方するかはお任せします。
まあ私としては、せっかくなので漢に味方して
ほしいのですが」

不承不承、彼は守将に言われたとおり、脱出を
果たした。そして結局楚軍に捕らえられたのである。
これも言われたとおりであった。

それからほどなくして滎陽は陥ちた。
楚兵たちは守備兵のいなくなった城壁をよじ登って
侵入したかと思うと、あっという間に守将を捕らえ、
城外の原野に引き連れてきたのだった。

虜囚となった彼の目にもそれは見えた。
項羽と二、三の問答を交わした後、
守将は煮殺された。
しかし彼の耳にはその問答は聞こえなかった。

およそ二か月の籠城戦が、ここに終結したのである。
彼にとって忘れられない光景……
それを象徴するのが煮殺される守将の
周苛の姿であった。

彼の名は、韓信。しかし当時漢の大将軍であった
韓信との混同を避けるため、一般に彼は
韓王信と呼ばれた。

周苛のような死に方は美しく、どうせ死なねば
ならぬ運命にあるとすれば、彼もあのような
死に方をしたいと望んだ。

だが、確かに彼は生きながらえていることを
喜んでいたし、虜囚の辱めも死ぬことに比べれば
耐えられないことではなかった。

だから彼の周苛の死に対する感じ方は、
どちらかというと自分にないものに憧れを抱く、
そういったものであった。  

しかし、当然ながら生きながらえたことには
罪悪感を抱く。死にきれなかったことに
後悔しながら、おそらくは自分にとって後悔せずに
死ぬことよりも、後悔しながら生き続けることの
ほうが幸せだと自覚しながら。

再び人生で同じ場面に遭遇したとしても、
きっと自分は死を選ぶことはない、と
思っていたのである。  

それでも楚軍の隙を見て脱走して漢に
帰順したことは、他でもない周苛に対する
贖罪の意識のあらわれであった。
生前の彼の言葉に従い、彼の意思を尊重した
結果の行為である。  

そしてその行為は彼の望んだ結果を生んだ。
漢はついに楚を撃ち破り、彼は諸侯王として
広大な領土と、権力の世襲を認められたのである。

「よかった」  
どちらかというと純朴な男であった彼は、
周囲に素直にそう述べた。
自分という男が生きているおかげで、
奇跡的に韓の王家は存続しえた、と
うれしがっていたのである。  

確かに彼は戦国末期の韓に王の職にあった
韓倉(襄王)の孫であった。
しかし側室の腹をその起源としたものであり、
彼自身も張良に見出されるまでは村里で農作業に
いそしむ青年の一人に過ぎなかった。
平民として過ごしていたのである。  

だからこうして韓王として君臨していることは、
どう考えてみても奇跡なのである
。彼はその気持ちを隠しもしなかった。

「趙の王室は、韓信によってとり潰されて現在は
張敖が君臨している。斉にしても同じだ。
田家は滅ぼされ、現在は韓信自身が
王を称している。

魏も韓信によって滅ぼされた。
魏の王家の末裔は平民におとされたが、
周苛は彼を斬り殺した。

楚の熊家の最後の一人は、長沙で
黥布に斬られている。
よって……春秋、戦国の昔から存続する王家は、
この韓しかない。

余は、この事実を深刻に受け止めている」  
成上り者どもが支配する天下で、伝統や
正当性を主張できる存在は自分だけだという
自覚は確かにある。
だが自分は高貴であるという認識はあまりない。

しかし、軽々しく死んではならないという思いは、
彼の頭の中の大部分を占めるようになっていった。  
だが、その思いは皇帝にあまり
伝わらなかったようである。

静かに、大過なく過ごそうとした韓王信に対し、
皇帝は国替えを命じた。
すなわち、旧来の韓の地を捨て、太原郡を新たに
韓としたのである。

「太原郡とは、もとの西魏の領地だ。
淮陰侯(韓信)がかつて魏豹を破った際に
得た、と聞いているが……
どうして余にそんな所を?」  

命じられた韓王信は言うことを聞くしかないと
わかっていても、周囲に確認せざるを得ない。
「かの地は伝統的に強兵が生まれる所だ、と
聞いております。皇帝陛下は、それを
抑えたいのでしょう。

王さまの力をもって」  宰相などはそのように答えた。
しかし、彼には納得がいかない。
「強兵が生まれる地だと? 
強兵など、どこでも生まれる。皇帝はこの地が
欲しいだけさ。雒陽に近いからな。

直轄の郡にしたいのだろう」
「では、勅命に応じないおつもりですか」
「そんなことはできない。皇帝が行けというのであれば、
行くしかないだろう」  

かくして韓王信は太原をその領地とした。
しかし実際に行ってみて甚だ後悔するに至った。
太原は常に胡えびすの侵犯する地だったのである。  
胡とは他ならぬ匈奴であり、首領に冒頓単于を抱えた
この時期は、その勢力の絶頂期であった。

韓王信は身の丈が八尺五寸あった。
当時の一尺は約二十三センチなので、彼の身長は
一メートル九十五センチもあったことになる。
その彼が苦労したことは、その目立つ身長のおかげで
何ごとにも失敗できないことであった。

心ない人は、彼が物事をうまく進められないでいると、
すぐ彼の背の高さを引き合いに出す。 「図体ばかりでかくて、
なにも出来ない奴だ」 「あいつは背が高いから
遠くのものは見える。しかし、足元はなにも見てない」

自慢の背の高さが、逆にやっかみの種になるのである。
その極めつけは、 「奴の背の高さは、
一種の病気ではないのか」  というものであった。

平民の頃の彼は、そんな陰口を耳にして、時には悩み、
時には相手を殴ったり、罵倒したりした。  
だから彼は王として君臨して以降、誰もそんな陰口を
叩かなくなったことを歓迎していた。

しかし、問題はまだある。彼の背の高さは人々の
印象に残りやすく、その結果望まぬ任務につかねば
ならないことが多々あったのである。  

周苛らとともに滎陽の守備に残されたことも
あるいはそれが一因としてあったのかもしれない。
そして、今回の国替えも、もしかしたらそれが原因
なのではないかと疑いたくなるのであった。

「匈奴の侵入に対する防衛のための国替えで
あったとしたら、言いたくはないが余より適任者は多い。
淮陰侯などはそのいい例だろう。

彼は、軍事に明るい。戦うために生まれてきたような男だ」  
彼は愚痴を言うような口調で言った。
側近たちはそれを咎める。
「どうか、勅令にご不満をあらわされないよう、
お気をつけ下さいませ。下手をすると不敬罪を
適用されます」

「ああ、せいぜい気をつけよう。しかし、どう思う? 
余は韓の正統な血脈を保つために日々努力しているが、
どうも皇帝はそれをわかってくださらぬように感じる。
陛下はひょっとして余を除きたいのであろうか」

「そんなことはございませぬ」
「では、淮陰侯や淮南王(黥布)らをさしおいて、
余がこの地に派遣されたという事実はどう捉えるべきか? 
彼らは明らかに余より軍事的に能力があるし、
実績でもそれを証明している。

にもかかわらず選ばれたのが余だということは……
陛下が余を除こうと思っていないとすれば……
単に背が高いことで印象に残っていただけ、
ということであろうか」

「さあ、あるいはそうかもしれませぬ」
「迷惑な話だ」 そう吐き出してみたものの、
自分は意外にも過去を忘れていないことに気付く。

都合の悪いことは忘れることを旨としてきた
つもりなのに、今思いだされるのは自分の背の
高さによって苦労したことばかりなのである。  

小さいこと、つまらないことと笑ってはいけない。
特に古代であるこの時代、人の外見的特徴は
我々の想像以上に大きな意味を持つ。

現代のように情報を伝達する手段も少なく、
統一された教育も施されていない社会では、
理想的な人物という概念もない。よって、
人は見かけで判断されることが多いのである。
・・・
(つづく)


愚人は過去を、賢人は現在を、
  狂人は未来を語る




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歌は心の走馬灯、歌は世につれ、
 世は歌につれ、
  人生、絵模様、万華鏡…


      




P R :

Bu

隙間産業(ニッチ市場)

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