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2017年8月 8日 (火)

妄想劇場・韓信外伝 (馬邑失陥)

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昨日という日は歴史、今日という日はプレゼント
 明日という日はミステリー


メジャーでは無いけど、 こんな小説あっても、 
 良いかな・・・


アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい

Kansin

韓信外伝 (馬邑失陥)

韓王信は思う。冒頓が自分を受け入れてくれたのは、
やはり自分の背の高さが原因ではなかったかと。
自分がどのような人間で、どんな能力を持っており、
何を愛し、何を嫌うか……

彼にとってはそのようなことはどうでも
よかったのではないかと。
重要なのは目を引く容姿、異彩を放つ外見的特徴、
そして人々の印象に残る風体……

いろいろな言葉を自分に当てはめてみたが、
結局これらはすべて同じ意味だった。  
しかし、そんなことはどうでもいい。  
匈奴は、基本的に中原からの亡命者を歓迎した。
中原人の持つ文化や知識、大は強力な攻城兵器を
開発する能力や、荒れ地を開墾して一大農地を作る
技術と知恵、

小は茂みの中に生息する薬草を見分ける能力や、
虫の吐き出す糸から織物を作り出す技能など、
そのどれもを有益とみなし、積極的に自分たちの国の
発展のために生かそうとした。

とどのつまり、自分もそれらのうちのひとつであったに
過ぎない。  確かに自分は戦略眼のない匈奴に
知識を授け、それを勝利に導いた。

彼らはその勝利の結果に喜んだが、自分は
不満を抱いた。たったそれだけのことであった。  
つまり破局を導いた原因は自分の側にあり、
冒頓に吐いた挑発的な台詞は、あまり自分の本意を
あらわしたものとはいえない。

比較的純朴な性格であった彼は、思いどおりに事態が
進んでいないことを知って反発を示したのだった。
自分でも驚くような子供じみた反応である。  
この土地が嫌だ。この風、雪、冬のどんよりとした空の色
……すべてが嫌だ。  
彼の真意はそこにあったのかもしれない。  

大気中のわずかな水分が小さな氷の結晶となって
空中に漂い、それが朝の日の光に反射してきらきらと輝く
幻想的な風景。それは人界と自然界の境目で
あるかのように彼には思われた。

不可侵の領域はつまり、まともな人間が暮らすべき
場所ではない。  零下の低温のもとでも暖かに過ごせる
匈奴の衣服は主に動物の毛皮で作られており、
それが彼らの荒々しさや逞しさを象徴的に示して
いるようにも見える。

彼は試しにそれを身に付けたことがあった。
しかしその着心地はごわごわとしており、確かに
温かいがお世辞にも快適とはいえない。
さらに気に入らないのは、鼻が曲がるほどの不快な
異臭がすることであった。

文明人ならば、やはり綿を詰めた布地の衣服を
身にまとうべきだ。  
匈奴の女は素朴で、素直であった。しかし、
肌が日にすすけているようで、一言でいうと汚い。
頬はあかぎれて艶もなく、女性特有の透明感など
皆無であった。

また、その手のひらは見るからに硬く、
握る気さえ起きない。
そんな女どもが毛皮の衣服をまとい、やはり異臭を
漂わせているのだった。

彼はこれでも女かと思い、近づくことすらできなかった。  
自分は王族という高貴な血脈を持って生まれ、
それを途切れさせることのないよう生き続けてきた。
そのために匈奴に身を売り、捲土重来を期して
不遇な現況にも耐え続けている。

しかしそれを覆すのが結局そうした世俗的な
欲望であったことには、嫌悪を抱いた。  
いいところに住み、きらびやかな衣服を着て、
夜にはたおやかな女性を抱く……

自分が求めているのは本質的にそれに過ぎず、
王家の血筋などというものは生き延びるための
建前に過ぎなかった。 死んでしまった方が楽だ。  

確かに死ぬことは、少し勇気を出せば済む。
しかし彼には死ぬ建前がなかった。  
まさか匈奴の女が醜いことを理由に
死ぬわけにはいくまい。  

彼はそんな思いを抱き、ひとり、くっくと笑い声を
漏らした。 「どうかなさったのですか」  
このとき行動をともにした側近の一人が尋ねた。
「いや、なんでもない。しかし結局匈奴との連携も
うまくいかなかったと思うと…もはや笑うしかない、
と思えたまでよ」

「ですが匈奴が敵となったわけではありません。
これまで我々は匈奴軍の中の一軍でありましたが、
これからは匈奴は友軍になった、
そういうことでしょう?」
「半ば独立した二つの軍。形ではたしかにそうだ。
しかし吾の身分は相変わらず匈奴の将軍でしかない。
それも実質を伴わないものだ」
「どういうことでしょう」
「本当の意味での匈奴の将軍であれば、吾が戦いに
敗れれば匈奴が窮地を救いに来たり、
失地を回復してくれたりする。

彼らは集団で戦うからな。しかし、吾にはそれが望めぬ。
だが……その方がかえって気楽だ。
やはりこれでよかったのだ」  韓王信はそこで再び
笑い声を漏らした。
それは笑い声であったことは確かだったが、
不思議なことに側近には嗚咽に聞こえたのである。

「韓王といっても吾はもとの韓王。将軍としても、
もとの匈奴の将軍。いまや吾は何者でもない。
その中途半端な立場の吾が求めるものは……
自分にとって理想的な死に場所……

これしかない。吾のこれからの戦いは、
これ一点のみが主題だ」  
彼は匈奴の地から長城を越え、王黄と曼丘臣の
勢力範囲内となっている晋陽に向かった。
孫の嬰と子の頽当は未だ匈奴に預けたままであった。

配下の将である王黄と曼丘臣に再会を果たした
韓王信は、何度か出撃を繰り返し、ある程度の
戦果を得た。辺境の地を我がものとし、
中原に領地を少しづつ増やしていく。

彼はそれを自分のためにやっていたのだが、
結果としてそれは匈奴を利することになっていた。  
匈奴は韓王信の領地を、我が物顔で通過する。
彼はそれにいまいましさを感じたが、
抗議することはできない。友軍であるという理由は
もちろんのこと、彼は息子と孫を人質に
取られているのであった。

この状況を打開するためには、交渉によって
人質を取り返し、匈奴に替わるあらたな味方を
探すしかない。 その機会は意外にも早くやってきた。
戦陣から戻った王黄のもとに使者が現れたことに
それは始まる。

使者の言上を聞いた王黄はその旨を韓王信に
取り次ぎ、この時点から黄河より北の地は
以前にもまして叛逆色に染められることに
なったのである。

「使者とは?」  興味を持ちながらも不安を禁じ得ない
韓王信は、言葉少なに王黄に尋ねた。
「新たに任命された鉅鹿の太守の食客にあたる人物です。
その人物が臣の食客と古くからの懇意でありましたので…」
「それで君のもとに話が舞い込んだというわけか。
それでその者は何と言っているのだ」

「それが……」
「どうせ新任の鉅鹿の太守の言うことだ。
帰順しろとか降伏しろとか言っているのだろう」
「それがそうでもないらしいのです」  
王黄は言葉を濁し、そのために韓王信の興味と
不安は余計にかき立てられた。
その様子を察した王黄は周囲を憚りながら、
さらに言葉を継ぐ。

その言葉は韓王信の耳元で囁かれるように
発せられた。
「新任の鉅鹿の太守は陳豨と申す者で、使者の
話の内容ではどうも……
淮陰侯の息のかかった者であるようです」
「…………!」 「お会いになりますか」  

彼は、このとき淮陰侯の名に恐怖感を抱いた。  
ついに皇帝は北の地の鎮圧に彼を用いたのか!   
観念したかのように彼は天を仰ぐ。

「王黄。君はよくもそんな落ち着いた態度を
とっていられるな! 吾は怖い。
どうして使者などに会っていられよう。追い返せ。
追い返して我らは再び匈奴の地へ逃げ込むのだ。
それしかあるまい」  

王黄にとっては予想外の主君の反応であった。
取り乱そうとする主君に対し、自分の言葉足らずの
言上を後悔しながら、必死に取りなそうとする。

「どうかお心をおしずめください。臣の思うところでは、
このたびの話は決して大王の不利になるものでは
ありませぬ。使者にはぜひ会って、その話を
お聞きになるのが賢明です」

「淮陰侯が、吾を討つのではないというのか。
なぜそう言える?」 「淮陰侯がそのつもりであれば、
すでに我々は滅ぼされています。そう思いませぬか?」  

韓王信はそう言われて考えた。確かに
淮陰侯韓信についての話は風聞に聞いたことがある。
彼は敵と戦うにあたって詭計を用い、
必要であれば不意打ちや夜襲も厭わない、と。

つまり、戦争相手に対して正々堂々とした態度を
持つことなど無意味だと考えている人物であるという噂。  
しかし彼は過去に淮陰侯韓信と面識があり、
その印象は決して悪いものではなかった。

かつては武勲を譲ってもらった経緯もあり、
詭計を好むと言われているが、実際に正攻法で
戦ってもその実力は当代随一のものであるということを
知っていたのである。  

だから淮陰侯が戦う前に相手に降伏を迫るということは
絶対にないとはいえなかったし、その逆に
討つつもりがない相手に接触を求めることも
ないとはいえなかった。

「王黄。では君の言うことを信じて使者に会うこととしよう。
だが話の内容によっては使者を斬り殺す。
そして進言した君も同様に……わかるな!」
「わかります。お言葉のとおりに」  

韓王信は恐れを心に抱きながら、使者を眼前に通した。
これが紀元前一九七年のことである。

・・・
(つづく)

愚人は過去を、賢人は現在を、
狂人は未来を語る




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歌は心の走馬灯、歌は世につれ、
 世は歌につれ、
  人生、絵模様、万華鏡…





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Bu

隙間産業(ニッチ市場)

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