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2017年9月 1日 (金)

妄想劇場・都市伝説

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定年の日

男の名は高橋。55歳になる今年まで会社の為に
がむしゃらに働いてきた。
しかし「ある日」を迎えることになる。 定年である。
最近の会社は60歳定年に移行する企業が
増えてきたが、高橋の勤める会社は今だ
55歳定年制を敷いていた。

今日は最後の出社日、同僚に花束とゴルフ好きの
高橋の為に パターを1本を送られ、感激と感慨を胸に
妻の待つ我が家に家路を急いだ。

家は郊外にある新興住宅地の一戸建て。子供はいない。
妻・智子との生活も30年もの長い付き合いになると、
言葉で確認しなくても 最後の勤めから帰ってくる夫を
どの様に迎えるかは、分かっていると思っていた。

しかし、家には明かり一つ灯ってはいない。
帰る時間は伝えてある。 (おかしい、絶対にヘンだ)
妙な胸騒ぎを感じた。智子は、普段どんなに午前様に
なろうが必ず出迎えに来る いたって生真面目な、
シャレやユーモアをほとんど解せない女だ。

また、それは高橋にしても当然のことと思っていたし、
今日みたいな特別な日は なお更だ。
(急に具合でも悪くなって病院にでもいったのかな?)
最初はそう思ったが、同時に別の考えもあった。

それというのも今日まで高橋にとって、仕事が全てであり
家庭をかえりみる事がなかったからだ。逆にまい進
すればするほど 出世が早まり、妻にとってもより安定した
生活が保証されことになる。

だから感謝されこそすれ、不満に思うはずはないと
タカをくくっていたのだ。
しかし、これといって家事や留守番以外特にすることのない
智子が まるで生きる目標の無い様子で過ごしている様は、
鈍感な高橋にも分かっていた。

(ひょっとして三下り半?それも定年のこの日に?)
考えたくはなかったが呼べども呼べども姿は
一向に表さない。
(なんのつもりだ?なんでよりによって定年のこの日に
こんな思いをしなけりゃいけないんだ。)

そう思ったとたんムラムラと怒りが込み上げてきた。
「智子!どこにいるんだ智子!いたら返事ぐらいしろ!」
シンとして反応はない。
高橋は靴をぬぐのももどかしく、真っ先に茶の間の
明かりをつけた。
テーブルの上には、宛名の無い白い封筒が置かれていた。

まさかと思っていたことが現実になった。
高橋はめまいすら覚えた。
そして恐る恐る封筒に手を伸ばした。封筒の中の
手紙にはこう書いてあった

「30年という大切な私の時間を奪われた代償に、
あなたのこれからの 人生を奪わせて下さい。・・・智子」

全く理解できなかったが、言いまわしは強烈だった。
(いったい誰のおかげで毎日をすごせたと思っているんだ。
誰が 日々の食いぶちを稼いできたとおもっているんだ)
(私の時間を奪われた代償?いままでの30年は
無駄だったというのか。

これからの人生を奪わせて?いなくなることで
不便さを味あわせようと いうのか、それともまた
別の意図があるのか) そこまで考えたとき
ふすまの後ろから声がした。

「読み終わりましたか?」
高橋はビクンと体を震わせた。
「どこにいる!出て来い!こっちへ来てちゃんと説明しろ!」
「出ては行けません。それに説明する必要もないでしょう」
「どういう意味だ!」

「ふすまを開けてごらんなさい」
妻の指示に高橋は唾を呑み込んだ。そしてゆっくりと
ふすまの前に立つと 一気にそれを引き開けた。

「・・・・・!」 声もでなかった。
予想もしていなかった光景に、叫ぶことすら出来なかった。
狭い廊下を隔てて茶の間の向かいにある和式トイレの
ドアが開け放たれていた。

トイレそのものの照明はついてなかったが、変わりに
ゆらゆらとロウソクの 明かりが揺らめいていた。
その明かりに照らされ、妻の智子が白装束を身にまとい
宙に浮いていた。

理解するのにずいぶんと時間がかかった気がした。
よく見ると智子は トイレに椅子を持ち込んでその上に
立っていた。しかも首には天井から下がるロープが
何十にも巻かれていた。同様に足首、手首にもロープで
ぐるぐる巻きにしていた。

「なんということだ」
「説明する必要がないと言ったのはこういう意味です」
「いったい何が不満でそんな真似をするんだ!
とにかくそこからおりて冷静に話し合おう」
「説得は無理です。ここから飛び降りる事に
決めたのですから」

「バカなことはよせ!」
「どうせ私はバカです」
「そうじゃない、そんなつもりで言ってるんじゃないんだ」
「いいえ私はバカです」
「バカでなかったらあなたに30年もお付き合いして
人生を無駄に費やしたりするものですか」
「・・・・・」

「私がここで首を吊ったらあなたの人生はおしまいですね。
例え長生きなさっても 妻にこういう形で死なれては
寝覚めが悪い所の騒ぎではなくなるでしょう」
「今まで家庭をかえりみることもなく、全てあなたの
言うなりになっていた 私に対してなさってきたことの仕返しに、
あなたのこれからの人生を奪いたい。それだけです」
「智子・・・」

説得を受け付けないという智子をなんとか
説き伏せねばと思いつつも
最悪の事態となったときどうするべきかを高橋は考えた。
全体重がかかったロープをほどくのは容易ではない。
しかし智子が 首を吊ってから置き場所さえ把握もしてない
包丁を探してきてトイレに引き返しても 間に合わないだろう。
かといって、先にロープを切る道具を用意しようとキッチンへ
行こうとすれば、即座に智子はイスを蹴ってしまう。

まさに近づくことも、離れることも出来なかった。
だが、いつまでもこうしてるわけには行かない。
仮にトイレに突き進んで智子が イスを蹴ったとしても、
間髪折れずに宙に浮いた体を支えることは出来るだろう。

だが、その体を預けられた状態でロープを解くのは
至難の技だ。というより不可能に近い。
しかしいつまでも支えきれるものではないし、
手を離してしまえば結局は高橋が妻を 殺したも
同然の形になってしまう。

(冗談じゃない)
(だったら何もしないほうがいいのでは?)
(だいたい、俺をこんなに苦しめる女房を助ける必要が
あるのか?いっそ智子には 死んでもらって周囲の同情を
買うのが正解かもしれない。そうすれば一回ぐらい
若い後妻をもらう事が出来るかもしれない。)

そこまで思いを巡らせたとき
「さようなら、あなた」
妻の声に高橋はハっと我に返った。

智子の揺れが大きくなってくる。両手両足の自由が
利かない状況ではもはや バランスをとるのが不可能
というギリギリのところまで揺れていた。

(助けなければ、もうすぐ俺の妻が死んでしまう)
一瞬はそう思ったが、まるで金縛りにあったかのように
動くことは出来なかった。
智子自身の為に救おうという気にはならなかった。
愛がない。

後先考えずに妻の体を支えるということは、結局
愛がなければ出来ないことが分かった。
1時間でも2時間でもいいから必死に支えられれば、
例え自分が力尽きても そしてその結果妻が死に
至ったとしても、それは最高の愛がもたらした
結末なのだ。

そこまで高橋の脳は理解した。が、行動には
移れなかった。愛がないからだ。
智子の体の揺れは限界を超えていた。と、一瞬
智子と高橋の目が合った。

(お願い、あなた。少しだけでもいいから私を支えようとして)
妻の目はそのように懇願していた。高橋にはなぜか
それがハッキリと分かった。
とたんにロウソクの炎に照らされた智子の顔が
般若に変わった。

「デエエエエエエエーッ」
聞く者の毛を逆立てするような悲鳴が、56歳の智子の
喉からほとばしった。
それを聞いた高橋の全身に鳥肌が立った。
高橋にはもうそれ以上見ることが出来なかった。
高橋は目をギュッとつぶった。ダーンという
大きな音がした。

高橋は全身をガクガクと震わせた。ガチガチと
歯が鳴った。
震えは1分、2分、3分とつづいた。その間目は
つぶったままだった。
とてもじゃないが、目の前の光景を直視することが
出来ない。妻の形相が まぶたに焼き付いて離れなかった。

(逃げ出そう。とにかくこの家から、足が動けるように
なったら・・・)
五分ほど経ったころようやく震えが収まってきた。
そして目をつぶったままじりじりと 後ずさりをはじめた。
と、その時である。

「えへへへへ」
笑い声がした。(な・・なんだ!)その場に凍りついた。
「えへへへへへへへ」
誰の笑い声かすぐには分からなかった。
「えへへへへへへへへへへへへへ」

声が徐々に近づいてきた。どう考えても智子そっくりの
声をしている。
妻は首を吊ったはずだ。そんな智子が笑えるはずがない。
しかし徐々にその声は近づいてくる

「えへっ、えへへっ、えへへへへへ」
高橋の身体の硬直度は、金縛りなどという生易しい
ものではなかった。全身が金属に なってしまったかと
おもうほど、恐怖の為に筋肉が突っ張っていた。

「えへ、えへ」
ついに笑い声は高橋の真ん前にきた。
そして息が顔に吹きかかる。
(首を吊った智子が歩いてきた?そんなバカな)
高橋は思い切って目を開けた。

(・・・・・・!)
目の前に妻の智子の顔があった。いつのまにか手足に
巻き付いていた縄をほどき 自由になった両手に
ロウソクを持っていた。そして・・・智子は笑いながら
泣いていた。

「智子・・・おまえいったい・・・」
それ以上言葉が出なかった。試されたのだ。
最初から死ぬつもりはなかった。
ギリギリの状況を作って夫がどのような態度に
出るのかを試したのだ。

しかしあまりにも冷酷な結果を突きつけられ、
智子は自分の人生が何であったのか
分からなくなったに違いない。そしてそのショックで・・・・
「えへっ、えへへへへ。おおっ、おおおおおおお」
「おおおおおおおおおおお」
こんどこそ演技ではなかった。

「おーおっおっおっ・・・・うおーっ!」
智子はロウソクを持った両手を高く突き上げ、
天井を仰いで号泣した。
智子の号泣はほとんどケモノの咆哮のようになった。
次から次へとあふれ出る涙が、 皺だらけの顔を
てらてらと光らせた。

高橋は呆然自失の体でそれを見つめていた。
とうとう自分は強引に妻の元に引き戻された。
そして、もはやこの先の自分の人生はなくなったの
だと・・・・・。

終わり




B15111


倉庫の休憩室

3年ほど前の事です。
当時、私は倉庫会社の配送担当をしていました。
その日は、仕事が終わってから仲間と一緒に
飲みに行き、
その後2軒3軒と飲み歩くうちに、気が付くと終電は
無くなっていました。
翌日は早朝から積み込みと配送があったので、
私は会社に泊まることにしました。

倉庫の横にある事務所の2階に休憩室があり、
早番や遅番のドライバーは、そこで仮眠を取ることが
良くありました。
ただ、深夜には「出る」という噂があって、
そこで夜を明かす人はほとんどいませんでした。

その噂のことは知っていたのですが、生まれてこの方、
怪異などとは縁がなく、全くの心霊音痴だった私は、
酔っていたせいもあって、深く考えることもなく、
休憩室の畳の上で横になるとすぐに眠ってしまいました。

どれぐらい眠っていたのか、私は電話の音で
目が覚めました。
ピリリリリッピリリリリッ
事務所の電話が鳴っています。
(こんな夜中に誰だろう?)
そう思いながらも、起きるのが面倒臭かったので
放っておきました。

しかし、電話は執拗に鳴り続けました。
ピリリリリッピリリリリッ
ボリュームが最大に設定してあるせいか、うるさい。
いい加減うんざりして、身を起こそうとした時

ドンドンドンッ!
1階にある事務所の入り口のドアが叩かれる
音がしました。
不審に思って動作を止め、耳を澄ますと、
今度はドアを引っ掻くような音がします。
ガリ・・ガリ・ガリ・・・ガリ・・・
何だか怖くなって、私は畳の上に半身を起こしたまま
息を潜めていました。

ピリ・・・・・
鳴り続けていた電話の呼び出し音が止みました。
同時に、ドアの物音もしなくなりました。
すると今度は、ぼそぼそと人の声がします。
ドアの外で誰かが喋っているようですが、話の内容は
わかりません。

何が起きているのか全くわかりませんでしたが、
ひどく嫌な予感がしたので、私は耳だけに神経を
集中して、物音を立てないようにジッとしていました。
話し声は断続的に、ぼそり、ぼそり、と聞こえてきます。
複数の男の声のように思えました。

やがて、女の声が聞こえてきました。
それを最後に声は止み、周囲には静けさが戻ってきました。
何が何だか良くわからないまま、しばらくは様子を
伺っていましたが、そのうち、張りつめていた気が
緩んだのか、いつしか私は眠ってしまいました。

次の日、私は早朝に目を覚まし、倉庫側のドアから
倉庫に入り、一人で積み込み作業をしていました。
すると、事務所の入り口の辺りに人が集まって
いるのが見えました。

作業の手を止めて行ってみると、
昨日物音がしていたドアに引っ掻いたような傷が
残っています。
「空き巣狙いなんじゃないのか?」
私の話を聞いた部長がそう言って、一応警察に
連絡することになりました。

夕方、配送を終えて事務所へ戻ると、私の顔を見た
部長が、警察へ行ってくれ、と言い出しました。
「今日、近所で倉庫荒らしが捕まったらしいんだが、
その関連で昨日の話が聞きたいそうだ。」
私は部長の車で警察に行くことになりました。

警察署では、簡単な事情聴取を受け、捕まった
倉庫荒らしの話を聞きました。
警察によると、犯人は中国人の窃盗団だということでした。
彼らは、狙いを付けた倉庫会社に電話を入れて
不在確認をし、そのうえで、電話が鳴りっぱなしであれば、
多少の物音を立てても気にすることなく、工具で
ドアをこじ開けて中に侵入し、金品を奪ってトンズラする、
という手口で倉庫を荒らしていたそうです。

「万が一の時に備えて、奴ら拳銃も持っていたんですよ。」
取り調べの警官がそう言うのを聞いて、
昨夜、侵入してきた窃盗団に見つかっていたら、と思うと
ゾッとしました。

続けて、警官が気になることを聞いてきました。
「昨夜、あなたは電話には出なかったとおっしゃいましたが、
本当ですか?」
私が、はい、と答えると、警官はしばらく考え込むような
素振りを見せてから、こう語り始めました。

「・・あいつら、あなたの会社へかけた電話に
誰かが出たと、そう言ってるんですよ。
だから、ドアをこじ開けるのを止めて、様子を伺って
いたらしいんですが・・・
何でそこで諦めたのか、誰も話そうとしないんです。」

警官は、ちょっと困ったような顔で言いました。
「捕まった時には、あいつら、あなたの会社の近くに
止めた車の中でブルブル震えていたんですよ。
大の男が4人揃って。何か、おかしいでしょう。」

「男が4人・・・ですか。」
「ええ、一網打尽って訳でして。それについては、
私らもホッとしておるんですがね・・・」
それで、私は昨日の事を思い出しました。

電話が切れた後、ドアの外にいたのは、凶器を持った
中国人の男達だった。
するとあの時、彼らの声がふっつりと止む直前に
聞こえた女の声。
あれは誰の声だったんでしょう?・・・・


終わり


B27


歌は心の走馬灯、歌は世につれ、
世は歌につれ、
人生、絵模様、万華鏡…






P R :

0661211_2

隙間産業(ニッチ市場)

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