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2018年5月17日 (木)

妄想劇場・番外編「痴人の愛」

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なぜ、美人はいつもつまらない男と
結婚するんだろう?
賢い男は美人と結婚しないからさ。・・・


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カフェーの女給から見出した15歳のナオミを育て、
いずれは自分の妻にしようと思った真面目な男が、
次第に少女にとりつかれ破滅するまでを描く物語

ナオミのモデルは、当時谷崎の妻であった
千代の妹・小林せい子である。

『痴人の愛』 谷崎潤一郎

私が、自分は野暮な人間であるにも拘かかわらず、
趣味としてハイカラを好み、万事につけて西洋流を
真似したことは、既に読者も御承知の筈はずです。

若もしも私に十分な金があって、気随気儘きままな
事が出来たら、私は或あるいは西洋に行って生活をし、
西洋の女を妻にしたかも知れませんが、それは
境遇が許さなかったので、日本人のうちではとにかく
西洋人くさいナオミを妻としたような訳です。

それにもう一つは、たとい私に金があったとした
ところで、男振りに就いての自信がない。
何しろ背が五尺二寸という小男で、色が黒くて、
歯並びが悪くて、あの堂々たる体格の西洋人を
女房に持とうなどとは、身の程を知らな過ぎる。

矢張日本人には日本人同士がよく、ナオミの
ようなのが一番自分の注文に篏はまっているのだと、
そう考えて結局私は満足していたのです。

が、そうは云うものの、白皙はくせき人種の婦人に
接近し得ることは、私に取って一つの喜び、
いや、喜び以上の光栄でした。

有体ありていに云うと、私は私の交際下手と
語学の才の乏しいのに愛憎あいそを尽かして、
そんな機会は一生廻めぐって来ないものと
あきらめを附け、たまに外人団のオペラを見るとか、
活動写真の女優の顔に馴染なじむとかして、
わずかに彼等の美しさを夢のように慕っていました。

然しかるに図らずもダンスの稽古は、西洋の女、
おまけにそれも伯爵はくしゃくの夫人と接近する
機会を作ったのです。
ハリソン嬢のようなお婆ばあさんは別として、
私が西洋の婦人と握手する「光栄」に浴したのは、
その時が生れて始めてでした。

私はシュレムスカヤ夫人がその「白い手」を私の方へ
さし出したとき、覚えず胸をどきッとさせてそれを
握っていいものかどうか、ちょっと躊躇ちゅうちょした
くらいでした。

ナオミの手だって、しなやかで艶つやがあって、
指が長々とほっそりしていて、勿論もちろん優雅で
ないことはない。が、その「白い手」はナオミの
それのようにきゃしゃ過ぎないで、掌てのひらが厚く
たっぷりと肉を持ち、指もなよなよと伸びていながら、
弱々しい薄ッぺらな感じがなく、「太い」と同時に
「美しい」手だ。と、私はそんな印象をうけました。

そこに篏めている眼玉のようにギラギラした大きな
指環ゆびわも、日本人ならきっと厭味いやみに
なるでしょうに、却かえって指を繊麗に見せ、
気品の高い、豪奢ごうしゃな趣を添えています。

そして何よりもナオミと違っていたところは、その
皮膚の色の異常な白さです。
白い下にうすい紫の血管が、大理石の斑紋
はんもんを想おもわせるように、ほんのり透いて
見える凄艶せいえんさです。

私は今までナオミの手をおもちゃにしながら、
「お前の手は実にきれいだ、まるで西洋人の
手のように白いね」と、よくそう云って褒めた
ものですが、こうして見ると、残念ながらやっぱり
違います。

白いようでもナオミの白さは冴さえていない、いや、
一旦いったんこの手を見たあとではどす黒くさえ
思われます。
それからもう一つ私の注意を惹ひいたのは、
その爪でした。

十本の指頭の悉ことごとくが、同じ貝殻を
集めたように、どれも鮮かに小爪が揃そろって、
桜色に光っていたばかりでなく、大方これが
西洋の流行なのでもありましょうか、爪の先が
三角形に、ぴんと尖とがらせて切ってあったのです。

ナオミは私と並んで立つと一寸ぐらい低かったことは、
前に記した通りですが、夫人は西洋人としては
小柄のように見えながら、それでも私よりは上背があり、
踵かかとの高い靴を穿はいているせいか、一緒に
踊るとちょうど私の頭とすれすれに、彼女の露あらわな
胸がありました。

夫人が始めて、“Walk with me!”と云いつつ、
私の背中へ腕を廻してワン・ステップの歩み方を
教えたとき、私はどんなにこの真っ黒な私の顔が
彼女の肌に触れないように、遠慮したことでしょう。

その滑かな清楚せいそな皮膚は、私に取ってはただ
遠くから眺めるだけで十分でした。
握手してさえ済まないように思われたのに、その柔かな
羅衣うすものを隔てて彼女の胸に抱きかかえられて
しまっては、私は全くしてはならないことをしたようで、

自分の息が臭くはなかろうか、このにちゃにちゃした
脂あぶらッ手が不快を与えはしなかろうかと、
そんな事ばかり気にかかって、たまたま彼女の髪の毛
一と筋が落ちて来ても、ヒヤリとしないでは
いられませんでした。

それのみならず夫人の体には一種の甘い匂においが
ありました。
「あの女アひでえ腋臭わきがだ、とてもくせえや!」と、
例のマンドリン倶楽部クラブの学生たちがそんな悪口を
云いっているのを、私は後で聞いたことがありますし、

西洋人には腋臭が多いそうですから、夫人も多分
そうだったに違いなく、それを消すために始終注意して
香水をつけていたのでしょうが、しかし私にはその香水と
腋臭との交った、甘酸あまずッぱいようなほのかな匂が、
決して厭でなかったばかりか、常に云い知れぬ蠱惑
こわくでした。

それは私に、まだ見たこともない海の彼方かなたの
国々や、世にも妙たえなる異国の花園を
想い出させました。
「ああ、これが夫人の白い体から放たれる香気か」と、
私は恍惚こうこつとなりながら、いつもその匂を
貪むさぼるように嗅かいだものです。

私のようなぶきッちょな、ダンスなどと云う花やかな
空気には最も不適当であるべき男が、ナオミの為とは
云いながら、どうしてその後飽きもしないで、一と月も
二た月も稽古に通う気になったか。

私は敢あえて白状しますが、それは確かにシュレムスカヤ
夫人と云うものがあったからです。
毎月曜日と金曜日の午後、夫人の胸に抱かれて踊ること。
そのほんの一時間が、いつの間にか私の何よりの
楽しみとなっていたのです。

私は夫人の前に出ると、全くナオミの存在を忘れました。
その一時間はたとえば芳烈な酒のように、私を
酔わせずには置きませんでした。

「譲治さんは思いの外熱心ね、直きイヤになるかと
思ったら。」
「どうして?」
「だって、僕にダンスが出来るかなアなんて云ってたじゃ
ないの」
ですから私は、そんな話が出るたびに、何だかナオミに
済まないような気がしました。

「やれそうもないと思ったけれど、やって見ると愉快な
もんだね。それにドクトルの云い草じゃないが、
非常に体の運動になる」

「それ御覧なさいな、だから何でも考えていないで、
やって見るもんだわ」と、ナオミは私の心の秘密には
気がつかないで、そう云って笑うのでした。

さて、大分稽古を積んだからもうそろそろよかろうと云うので、
始めて私たちが銀座のカフエエ・エルドラドオへ
出かけたのは、その年の冬のことでした。

まだその時分、東京にはダンス・ホールがそう沢山
なかったので、帝国ホテルや花月園を除いたら、
そのカフエエがその頃漸ようやくやり出したくらいの
ものだったでしょう。

で、ホテルや花月園は外国人が主であって、服装や礼儀が
やかましいそうだから、まず手初めにはエルドラドオが
よかろう、と、そう云うことになったのでした。

尤もっともそれはナオミが何処どこからか噂うわさを
聞いて来て「是非行って見よう」と発議したので、
まだ私にはおおびらな場所で踊るだけの度胸は
なかったのですが、

「駄目よ、譲治さんは!」と、ナオミは私を睨にらみつけて、
「そんな気の弱いことを云っているから駄目なのよ。
ダンスなんて云うものは、稽古ばかりじゃいくらやったって
上手になりッこありゃしないわよ。

人中へ出てずうずうしく踊っているうちに巧うまくなるものよ」
「そりゃあたしかにそうだろうけれども、僕にはその、
ずうずうしさがないもんだから、………」
「じゃいいわよ、あたし独りでも出かけるから。

浜さんでもまアちゃんでも誘って行って、踊ってやるから」
「まアちゃんて云うのはこの間のマンドリン倶楽部の
男だろう?」
「ええ、そうよ、あの人なんか一度も稽古しないくせに
何処へでも出かけて行って相手構わず踊るもんだから、
もうこの頃じゃすっかり巧くなっちゃったわ。

譲治さんよりずっと上手だわ。
だからずうずうしくしなけりゃ損よ。ね、いらっしゃいよ、
あたし譲治さんと踊って上げるわ。ね、後生だから
一緒に来て!
好いい児こ、好い児、譲治さんはほんとに好い児!」

つづく

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付き合って2年になる彼女がいた。
彼女とは中学の同級生で成人してから付き合い始めた。
同窓会で2年振りの再会。

お互いにどんな性格なのか、趣味がなんなのかなど
知っていたので付き合おうかな~となったとき、
そう時間はかからなかった。

彼女の家と、俺の家は近かったが、毎日
会うわけでもなかった。
連絡も気まぐれにするような感じで頻繁と
いうわけでもなかった。

だけど、俺は彼女のことが大好きで、
『きっとこいつと結婚するんだろうな。』という思いが
こころのなかにあった。

付き合って2年目の夏、
「今年も花火行こう!」「夏祭りに出掛けよう!」と
彼女との恒例の話しが始まった。

結婚も現実味を帯び、『今年はこのイベントを使って
プロポーズをしよう!』と決めていた俺だった。
『どんな風に言えば彼女は喜んでくれるだろうか、
どう伝えれば彼女の心に響くのだろう。』と悩みに悩み
プロポーズする日ギリギリまで毎日のように
紙に書いてはこうじゃない、こうでもない。と考えていた。

プロポーズの言葉も決まり、あとはメッセージを花火に
のせて伝えるだけ。
『彼女は驚くだろうか?笑うのかな?泣くのかな?』
なんて想像をしながらプロポーズの日を待った。

プロポーズ前日の朝。

彼女から「今日は友達と遊びにいってくるね。
明日の浴衣買いにいってくるわ!どんなんにしよかな~?
楽しみにしてて。」とメールが入っていた。

俺は想像を膨らませ、仕事に出掛けた。
仕事が終わり、帰宅しようと携帯の電源を入れた。
すると、一本の電話が鳴った。
彼女の家族からだった。

「俺君、今から◯◯病院まで来てくれる?」と。
なんで病院?と若干パニックな俺は急いで向かった。
病院の入り口で彼女の家族が待っていた。

「何があったんですか?」と聞く俺に彼女の家族が
「あのね、落ちついて聞いてね。今日の朝、
出掛けると言って出ていった◯◯が事故にあって。
打ち所が悪くて今意識がないの。今夜が山って言われて。」

俺は頭の中が真っ白になった。
急いでICUに向かうと、スヤスヤ眠っている彼女。
その姿を見て、『なんだ、オーバーな。
寝てるだけじゃないか。今夜が山?
朝になれば目を覚ますやろ。』と、俺は思った。

朝になっても目を覚まさない彼女。
峠を越えたと思ったが、プロポーズ当日の夜になっても
目を覚まさない。

花火の時間になり、会場近くだった病院の周りは
人で埋めつくされていった。
病院の窓から見える花火。
今頃俺は、彼女や友人たちとこの花火を一緒に
見ているよな。

彼女は『新しい浴衣を着て俺の横で綺麗やね~!』
と満面の笑顔で言っているよな。
なんて、考えながら花火を見ていた。

メッセージ花火の時間。

会場からアナウンサーの声が聞こえた。
「俺さんから◯◯さんへ。至らない俺やけど、
これからの人生、俺の横でずっとそのすてきな笑顔
見せてくれへん?」と言うプロポーズの言葉と共に
彼女への花火が打ち上がった。

花火終了の時刻。
とうとう意識も戻らず、家族、友人に見守られ彼女は
息を引き取った。

あれから2年。
今年も花火の季節がやってくる。
あのとき、どんな風に返事をしてくれたのか。
今となってはもうわからない。・・・




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歌は心の走馬灯、歌は世につれ、
  世は歌につれ、人生、絵模様、万華鏡…






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